あ~やらかした…と頭を抱えてしゃがみこんでも事態は変わらない。
錆兎はしばらくしゃがみこんだままどっぷり落ち込んでいたが、やがて重い腰をあげて、部屋を出た。
怒っているのだろうか…と思いつつも、この学校は安全とは言えないのだから義勇を一人にしなければいけない時間は極力作らない方が良い。
そう判断して委員会の方で渡されている義勇の部屋の合鍵を使ってドアを開けてみる。
「義勇?すまないが少し話をしたい…」
明かりもついていないので、もしかして疲れて寝ているのだろうか?と思って明かりをつけないまま部屋の奥のベッドを覗き込むが、誰もいない。
一人で食堂でも行ったのだろうか?
錆兎はきびすを返して義勇の部屋を出てまた鍵をかけると慌しく食堂へと向かうが、夕食を摂る学生でごった返す中、何度探しても義勇の姿は見えない。
あと考えられるのは……
入り口へ行ってタイムカードのデータを確認するが、外には出ていない。
どこだ?!
図書館、談話室、大浴場に屋上まで、全てかけずりまわったが義勇の姿が無い。
まさか…と思って恐る恐る屋上のフェンスを登って下をみたが、下に人が倒れているということはなくて、その点ではホッとした。
しかし殺人事件があった学校だ。
何があっても不思議ではない。
どこにもいない。
事故か?事件か?それともっ??
錆兎は狂ったように寮中を駆けずり回った。
血相を変えて駆けずり回る錆兎にどうしたのか?と何人か知り合いになった学生が声をかけてくるが、仕事のこともあるので大げさには出来ない。
仕方なしにあせりを押し隠して、
「いや、ちょっとした失くし物なんだが、義勇に貸した気もするんで探してるんだ。
義勇を見なかったか?」
と、失くし物を強調して聞いてみたが、みかけたという人間はいない。
こうして探し回ること3時間。
5時に授業が終わって5時半に部屋に二人で戻って、6時前に分かれたので早9時になっている。
念のため、と、もう一度部屋に戻ってみるがやはりいない。
気が狂いそうな後悔の念に襲われた。
何故あんな言い方をしてしまったのか…。
何故危険な場所だとわかって一人にしてしまったのか…。
罵られても嫌われても側にいるべきだったのに……。
もし…義勇に何かあったら……
そう思うとジッとしていられず、明かりが落ちてからも寮のあちこちをクルクル回る。
「ちょ、錆兎、お前どうしたのよ?」
自販機の前で人にぶつかりそうになって慌てて歩を止めた錆兎の前にいたのは、目を丸くした村田だった。
「何かあったの?大丈夫?」
明らかにひどい顔色をしていたのだろう。
気遣わしげにそういわれて、堪えてたものがワッとあふれ出した。
「…っ…ぎゆうがっ……」
そう言うなり言葉に詰まると、
「とりあえずこれ飲んで落ち着いて?」
と、村田は今買ったのであろうコーヒーの紙コップを渡してくれる。
普通なら気を遣うなと言うところなんだが、今はそんな余裕もない。
ありがとう、と、礼を言ってそれを飲み干し、それから手の中のコップをクシャッと握り潰した。
「居なくなったんだ…。
6時くらいからずっと探してるんだが、どこにもいない」
「いなくなったって……」
「その前に少し言い争いみたいなことして……
義勇に何かあったら俺のせいだ…」
青ざめて言う錆兎に動揺しつつも、村田は
「えっと…とりあえず先生に言おう?」
と歩を進めかけるが、錆兎は慌ててそれを制した。
「だめだっ!」
「え?」
「いや…その…大げさな事嫌いな奴だし…」
「あ~、確かにきまずいかもだけど…」
「もし…変なことに巻き込まれてたら、公にしたら危ないかもしれないし…」
「いやいや、それTVの見すぎ…」
「何を言ってるんだっ!この学校は殺人起きた学校なんだぞっ?」
「あ…うん…そうだけど……」
「とにかく今晩はこのまま探してみる。
明日になったら隠そう思っても無理だろうしな。
その時は学校に任せるということで…」
「あ~うん…お前がそう言うならそれで良いけど…なんかあったら夜中でも良いから連絡頂戴ね?」
そう言う人の好い村田と分かれて、錆兎はまた夜の寮をグルグルし始めた。
全て自分のせいだと思う…。
素知らぬふりが苦手な義勇があまり他と接触を持つのは好ましくない。
その判断は良いとしてももう少し注意の仕方があったはずだ。
錆兎の方が感情的になってどうする?
感情の制御が出来ないのは未熟者だとわかっているのに義勇が絡むとどうも冷静ではいられない。
初めて出会った時、教室移動で置いて行かれて泣きそうになっていた義勇をみつけて声をかけたのは偶然だった。
でも事情を聞いて移動先の音楽室まで案内してやって始業ぎりぎりに自分の教室に駆け込んだ時には、そんなことはほぼ忘れていた。
なのに次の休み時間にお礼に来た義勇のあどけなくも邪気のない笑顔に心臓を鷲掴みにされたのである。
そう、まさに、ぎゅうっと!と言った感じだ。
あれ以来、従来から何でも他人よりも出来てきたことであまり動きの少なかった錆兎の感情がとんでもなく浮き沈みをするようになる。
挙句に義勇の正体を知って事情も全て知ってしまって義勇の事が心配なあまり、今までの名門校の首席というキャリアをかなぐり捨てて、裏教育委員会などという怪しさ満載の組織に躊躇なく入り、学園警察なんて仕事につくことになっているのだ。
しかし…自分が守るから大丈夫…そんな根拠のない自信を持っていた今までの自分を殴り飛ばしたい。
「義勇になにかあったら…俺も死ぬ……」
見つからないまま夜明けをみて、錆兎は主が不在の義勇の部屋の前で両手のこぶしを握り締めて涙をこぼした。
0 件のコメント :
コメントを投稿