学園警察S&G_第11章_長子と末子

「んで?泣きたいだけなら泣いてても良いし、話したきゃ聞いてやるぜ?」

錆兎の部屋を飛び出して、気づけば宇髄の表札を探していた。
幸い極々近く、義勇の部屋の隣の隣の隣だった宇髄の部屋のドアを恐る恐る叩いてみる。
そこでカチャリとドアを開いて顔を出した宇髄は驚いた様子で、それでも黙って中にいれてくれた。

こうして泣きながらコーヒーをすすること数分。
ようやく嗚咽が小さくなってきたタイミングで宇髄がそう言うが、自分でも何を話していいのかわからない。

困ったようにマグカップに顔をうずめる義勇に、宇髄はくしゃくしゃっと頭を掻いた。

「あ~…俺の事ちっと話すか」
宇髄は結局そう言って、自分のマグをテーブルに置くと、椅子を義勇に明け渡しているため自分はベッドに腰をかけた。

「まあ皆疑いなんてかけられたらそう言うもんだと思うけどな、俺マジやってないんだよな。
つかな、俺が疑われる理由が、成績が1位の奴が3位の奴に殺されて二人がドロップアウトしたら、2位の俺が得するだろうとか、そんな理由ってマジ勘弁だよな」

まあ…言われてみればそうである。
証拠もなければ、実際やれる方法すらないのだ。
ただそんな憶測とも言えないような憶測で殺人犯扱いされたらたまらないだろう。

「確かにな、成績は大事なんだよな。
俺は大人になったら絶対に叶えたい夢があるから、出来れば良い職について良い給料欲しいのは確かだ」

「…ゆめ?」

「ああ。俺の親はいわゆる毒親でな。
しかもなまじっか権力をもってやがるから逆らいにくい。
だから俺はそれなりに社会的地位を手に入れて親と完全に絶縁してえんだよ」

だからこそやばいことはやらない…そういう宇髄の言葉には嘘はないように思えた。
ちらりとマグから視線を移して目があうと、ニカっと笑う。

「なあんかな、顔立ちはぜんっぜん違ってっけど、どこか不安げで妙に我慢してるような、そんな感じが、その毒親のせいで死んだ弟が育ったらこんな感じかもな~って重なっちまって、おせっかいしちまったわけだ」
と、今度は義勇の頭をくしゃくしゃなでた。

「…俺も姉ならいたけど……」
同級生なのに何故かそんな態度も腹がたたず、それどころか気がつけば口にしてた。

「あ~やっぱりそうなのか。ぜってえ末っ子か一人っ子だと思ってた」
「それ両方正解だ」
「あ?」
「姉とは5歳年が離れていたし、姉というよりもう一人の小さな母さんみたいだったから…もう事故で亡くなったけど…」

話してみて義勇は少ししまったな、と、思った。
雑談にしては暗すぎる。
しかし宇髄は気にした風もなく、それなら、と、身を乗り出した。

「需要と供給だな。俺様を兄貴だと思って困ったことあれば気軽に言えよ。
逆に面倒な時は放置すりゃいい。
ま、愚痴ぐれえは言う時あるかもしんねえけどな」

「それは…俺に都合よすぎじゃないか?」

「ん~、上の兄弟ってそんなもんだろ?」

こんな風に無条件に自分を甘やかそうなんてしてくれる相手は姉と…錆兎以来だ。
まあ錆兎の場合は自分が学園警察に引きずりこんでしまったので、毒食らわばなんちゃらなのかもしれないが…
それもさっき忍耐が尽きたらしく、ひどくイライラと半人前宣言されてしまったが…。
錆兎が入ったきっかけが義勇だったとしても、いい加減一人前になって開放して欲しいと思っているのだろう。

あの、冷静で優しい錆兎が、あんなに心底イラついたような表情をするのを初めて見た。

思い出したらまた悲しくなってきて止まっていた涙がジワリとあふれてくると、そこで宇髄は初めて少し慌てた様子を見せる。

「わりっ。なんか嫌だったか?」
と、心配そうに覗き込んできた。

それに義勇がブンブンと首を横に振ると、
「じゃあ…さっき泣いてた理由をまた思い出したとか?」
と聞いてくるので、義勇はこくりとうなづいた。










0 件のコメント :

コメントを投稿