事件の当日は学年ごとに固まって、食堂で打ち上げをする予定だった。
1年は2クラスだが、A組もB組も入り混じっての打ち上げだ。
「じゃ、とりあえず一番偉い先生様と主席様の乾杯からだな~」
と、容疑者、天野俊太郎にまず主席である被害者宮川裕也と教師自身の分のジュースをいれて渡すように命じた。
教師としては単にたまたま目に付いた生徒に命じただけで他意はなかったらしいが、一番最後の定期試験である2学期の中間の前、1学期の期末では宮川と天野の順位は逆だったので、これは天野的には非常に屈辱的な事だったのだろう。
これが殺人に走った一番の理由だと判断された。
その後、被害者はテーブルを挟んで教師と紙コップを掲げるだけの乾杯をし、教師はその時点で被害者と同じ所から取った紙コップに同じピッチャーからいれた氷をいれ、同じペットボトルから注がれたジュースを飲み干している。
もしそのいずれかに毒が入っていたなら、教師も死んでいるはずである。
しかし教師は死なず、数分後、被害者だけが亡くなった。
ゆえに、全く同じ条件の物を飲んで無事な人間がいる以上、渡す時に毒が混入されたとしか考えられないと結論付けられた。
「その時、例の宇髄は?」
「ん~特に注目してなかったからよくわかんない。
仲いい奴もいないしね。
でも、被害者の宮川の側にいなかったのは確かだよ。
3人それぞれにあまり仲良くないから、近づいて歓談なんかしてたらむしろびっくりで皆覚えてると思うし?」
「動機もあって、他に犯行を行えた奴はいないな…確かに状況的には天野以外にありえないんだけどな…」
被害者加害者両方いなくなって得をするのは2位の宇髄だが、どう考えても犯行は無理だ。
洗いなおすまでもなくそう思う。
だが、何か引っかかる気がする。
そう…強いて言うなら出来過ぎている。
加害者と言われる人間以外完全に毒を入れることが出来ない状況…。
大勢の人間が集まっていて、加害者以外の人間の無実が完全に証明できる状況なんてそんなに都合よく出来るものなのだろうか…。
偶然と言ってしまえばそれまでだが、加害者が毒まで用意して虎視眈々と被害者を狙っていたとしたら、わざわざそんな状況で犯行を実行するものなのだろうか…。
それとも敢えて明らかに自分がやったとわかるように犯行を行うことにしたのだろうか…。
そもそも卒業時に首席であることに非常にこだわりのある生徒達が次回はまた自分が主席の座を取り戻せる可能性も低くはないだろうに、そんな犯行を行うだろうか…。
(だめだ…全くわからん……)
錆兎は当時いなかったうえに事件の重要人物である被害者も加害者もなくなっているため、事実を割り出すにはそのあたりの情報が少なすぎる。
こうなれば最終的に第三者である村田だけではなく、その時に近くにいた教師や、なんなら実は真犯人では?と言われている当時二位だった宇髄にも接触して話をきかねばならないだろう。
まあなんにせよ今の短い昼休みに出来ることはここまでだ。
錆兎はそう割り切ってもうそれ以上考えるのは諦めて、目の前のおにぎりの攻略に専念することにした。
0 件のコメント :
コメントを投稿