そうして解いているうちにいつのまにか昼休みに。
「お前さ…一体何解いてるの?
これ何?俺ちんぷんかんぷんなんだけど…」
頭上から村田の呆れた声が降ってくる。
「…なんで英語?」
「…海外の大学のだから?」
「………」
「………」
「…なに、この秀才様…」
村田ががっくりと肩を落とす。
「まあ他に迷惑かけるわけじゃないし、解きたいもの解いてるだけだから構わないだろう?
それよりさっきの話の続きをしてくれ」
と、錆兎は食堂に行くためさっさと立ち上がったが、そこで教室内を見回して気づいた。
「義勇が居ない!」
叫ぶ錆兎。
「あ~、冨岡なら先生に連れられていったよ?」
と、耳を塞ぎながら言う村田。
「先生…なぜ?」
「さあ?勉強のこととかじゃない?
転校生だし、前の学校と進み具合とかも違うだろうしさ。
お前はうちの授業の遥か先までやってそうだから必要なさそうだけど…」
まあ…義勇も教師と一緒なら安全だろう。
とりあえず今は少しでも義勇の安全確保のために、この男から情報を引き出さなければならない。
「まあ…しかたないか。食堂行こう」
義勇のことは教師に任せるとして、やるべきことはやらねばと錆兎は気持ちを切り替えた。
そんな錆兎を見て村田は、もしかしてさ…と、口を開いた。
「錆兎ってさ、もしかして冨岡のこと特別に好きなわけ?」
「見てわからないか?」
「いや…わかるけど……」
隠すことでもなく、実際に隠してもいないので肯定しておく。
月陽は男子校なので別に特別に好きな相手が同性だと言うことも珍しい事ではないらしい。
村田も
「お前ってさ、厳しい性格に見えるけど好きな相手には過保護なタイプなのね」
と苦笑するのみだった。
「義勇が俺の学校に転入してきて知り合ったんだが、あの通りでな。
泣きそうな顔でオロオロしていてつい気になって手を差し伸べ始めて、別のクラスだって言うのに義勇のクラスに入り浸っておせっかいを焼き続けて今に至るから」
「あ~、そう言われればなんだかわかる気がする。
なんのかんので世話好きが世話の焼ける相手に惹かれちゃったってやつね」
「ああ、そんな感じかもな」
別に怪しい感じも危険な感じもしないのだが、そういう感じがしなさ過ぎて村田には少々必要のないことまで話してしまっている気がする。
これと言って取り得がないように見えて、これはすごい才能だと錆兎は感心した。
おそらく別に話して問題のない相手に問題のない話をしているのだが、本題はそうではない。
必要な情報収集がお留守になってはいけない…と思い直して、錆兎は
「なあ、改めてさっきの話なんだが…」
と隣を歩く村田を振り返ると、村田は
「せっかちだな。
食堂についてからにしようぜ」
と苦笑する。
まあ確かにこんな誰が聞いているとも知れない廊下で話すことではない。
食堂に行ったらあまり人のいない片隅の席を陣取ろうと心に決めて、錆兎はその村田の意見を了承した。
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