学園警察S&G_第5章_とある授業風景

「この問題は…、冨岡、解いてみろ」

科学の時間、教師に言われて立ち上がった義勇は白墨を手に硬直する。
さすが進学校。
問題が難しすぎて全くわからない。

一応イレギュラーに入れた転入生なので賢いはず…という前提が教師にも生徒にもあるので、なんだろう?と教室内がざわついた。

そこで錆兎が手を挙げる。

「先生、緊張しているみたいなので俺が解きます」
そう言われて、疑うというより戸惑っていた教師はホッとしたようだ。

「ああ、なら鱗滝が解いてくれ。
冨岡は席に戻れ」
言われて半分涙目でぷるぷる震えていた義勇が席に戻るのと入れ違いに錆兎が前に。

(…大丈夫、気にするな)
とすれ違いざまに錆兎が小声でフォローをいれると、義勇は
(…足を引っ張ってごめん……)
と俯いた。

なまじ焦っていたのもあって、確かに極度のあがり症に見える。
少なくとも皆、問題がわからないのではなく、当てられたことで緊張してしまったのだろうと納得したようだ。
誰も特に疑問を口にすることはない。

一方で代わって前に出た錆兎は、スラスラと黒板の問題を解いていく。

「ん。正解だ。さすが編入試験平均98点取っただけのことはあるな」
教師が満足げにうなづきながらそういうと、教室内にざわめきが広がった。

進学校ほど試験問題は難しく、当然取れる点数は低くなる。
月陽の編入試験はだいたい70%取れればいい方だと言われているので、90以上などとんでもない秀才…いや、天才だ。
なのでその教師の言葉に一礼して席に着く錆兎には様々な視線が送られている。



「色々な意味で危なそうだよな…鱗滝って」
錆兎が着席したその時ボソっとそう呟いたのは村田大志。
錆兎の隣の席の学生である。

本人はなにげなく言ったのであろうその言葉は随分と不穏で、錆兎としては気になる言葉だ。

「どういう事なんだ?それ」
とグイっと村田の腕を掴んで引き寄せると、そこで村田は初めて錆兎が聞いていたらしいことに気づいて、焦ったように身をすくめた。

「深い意味は無いよ?」
「深い意味なくて危ないとか言うか?」

自分は義勇を守るためにこの仕事についているのだ。
どんな些細な危険からも義勇を守る義務と責任がある。
そのためには危険についての情報は漏れなく知っておかねばならない。

「あ~、鱗滝ってさ、すごく頭が良いから。
冨岡と同じ学校に居たことがあるって言ってたけど、実は冨岡もお前並みに頭いいの?」

とても平凡な容姿なのに、何故か髪だけサラサラキラキラ。
成績も普通。良くも悪くも目立たない男だ。
それでも馴染みやすい性格はしているので転校してそろそろ1週間だが、なんとなく一緒にいることが多い。

「その学校は勉強は全部能力別クラスだったんだ。
上のクラスと下のクラスの差がかなりあって、俺はトップのクラスで、義勇は中間くらいのクラスだったな。
それでもホームルームのクラスは一緒だったから交流はあったんだ」

と、委員会の方が用意してくれた設定をそのまま伝えると、村田はふ~んと特に疑う様子もなく、ただ
「そういうのってさ、クラス決めの時にすごく殺伐としそうだよね」
とどこか意味ありげにつぶやいた。

「ここも進学校だろう?殺伐としているのか?」
「う~ん…まあ…色々?」
「そこまで言ったならちゃんと教えてくれ。
気になるだろ」
「噂だけどね。
学校側は必死に隠してるけど、うちの学校それが原因で殺人が起こってるらしいよ」
「それ…本当か?」
「噂だよ、ホントかどうかは知らない」

「詳しく聞かせてくれ」
いきなり核心に迫る話に錆兎が身を乗り出すと、
「お前ら、私語は慎めっ!」
と、チョーク二つが飛んできた。
それはそれぞれ錆兎と村田の頭を見事に直撃する。

「すみませ~ん」
村田はヘラっと教師に謝罪すると、今度は錆兎に小声で
「聞きたいなら、昼にでもね」
と、苦笑を浮かべて言った。

まあ…授業中にする話じゃないよな、確かに。
と、錆兎も納得して、素直に勉強に集中する。
と言ってもなんだか簡単なものばかりなので、持参の問題集を解いていた。

この学校はそのあたりはかなり自由らしい。
騒いで周りの邪魔をするようなことをしなければ寝ていようが内職をしていようが構わない。
むしろ授業が必要がないようなレベルで出来るなら、難問を解くのに時間を費やすのを推奨するくらいだ。










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