学園警察S&G_第4章_考察

――毒物が混入されていたのは、被害者の紙コップ…物理的に毒が混入できた可能性があるのは、ジュースと氷と紙コップか…。

緑茶のマグを片手に分厚い資料に目を通しつつ、そうつぶやく錆兎とそれに見惚れる義勇。

ああ、カッコいいな。
まるでドラマに出てくるイケメン刑事みたいだ…などと思いながら目をハート形にしていると、さすがに視線が熱すぎたらしい。

もう本当に何度も何度もついているが義勇はそれもカッコいいと思っているため息をまたつきながら、
「義勇…話きいてるよな?」
と、錆兎は困ったように視線を資料から義勇に移した。

「えっと…錆兎の声は聴いてる。
すごく良い声。
俗に言うイケボだよね」

義勇の答えに
「…それはどうも……」
と錆兎は大きく肩を落とす。

「でもな、聞いて欲しいのは声質より内容な?
…と言っても義勇が直接動くようなことはあまりないかもしれないから、お前の身の安全の確保に関わることだけは気にして聞いてくれ」

声音はやや呆れた調子だが言われていることは義勇への気遣いなので、それだけで義勇は浮かれてしまう。

だってこの季節に大好きな錆兎と過ごせるどころか、これが終わっても一緒に居てもらえるなんて言質が取れたのは、本当に神様からの贈り物である。


そう、今は12月の始め。
もうすぐクリスマスという事もあって街はそれなりに賑わいを見せ、子どもは貰えるであろうプレゼントに浮かれ、親はそのプレゼントに頭を悩ませる。
カップルならば互いに予定をあわせ甘い夜をすごすのであろうし、気の置けない友人がいるのなら、『リア充爆発しろ』などと叫びながら馬鹿騒ぎをするため、会場や飲み物食べ物の検討に走るだろう、そんな季節なのだ。

でも義勇はそのどれにも当てはまらない。
そもそもが姉のストーカーに一家惨殺をされて天涯孤独の身の上だし、学校だって平和ではあったが元々人見知りなので気軽に話しかけてくるような友人は出来ない。

つまりクリスマス前のこの時期、非常に所在が無くどこにいても居心地が悪い。
だから転校という新しい環境に順応しなければならないイベントはあまり嬉しくはなかったが、仕事が舞い込んできたこと自体は正直嬉しかった。

“仕事が忙しくてそれどころではない”
…それは公で口に出来なかったとしても、義勇にとってはクリスマスに一人ぼっちであろう自分を納得させる非常に良い口実だったのである。

そのうえで錆兎が一緒なんて幸せ以外なにものでもない。


「聞いてないかもしれないが、お前は資料も読んでいないか読んでいても理解していない気がするから、念のため事件の概要を語るぞ?」
という声に
「聴いてる」
と答えると
「…俺の声を…か?」
と返ってくるので大きく頷く。

錆兎はまたため息。
しかし埒が明かないと思ったのか、
「もうお前が聞いていようが聞いていまいが自分の整理のためにも勝手に語る。
気が向いたら聞いておけ」
と資料に目を落とした。

「被害者の殺害に使われた毒入りのジュースは普通にコンビニで購入した2ℓのペットボトルから注がれ、氷は寮の食堂の冷蔵庫で作られたもの、紙コップも普通にジュースと共にコンビニで購入されたものだった。
被害者は容疑者から渡されたジュースを飲んで死亡している。
残ったジュースからも氷からも紙コップからも毒は検出されなかった。
さらに同じペットボトルから注いだジュースと同じ製氷皿から作った氷で同じところから取った紙コップで飲んだ人間は生きている。
そういう状況で、被害者の飲んだ紙コップからのみ毒が検出されたため、容疑者が個人的に被害者のコップに毒を混入させたという事になった。
これだけだと確かに疑う余地がないんだが……
ただ感情的な部分で寄せられた投書を、数多くのトラブルを解決してきた産屋敷総帥が取り上げるとは考えられない。
何か明確にこれというものはないが、漠然と引っかかる点を感じたからこそ、調べることにしたのだろう」

そこでいったん言葉を切った錆兎に義勇は聞く。

「で?真犯人って言われてる奴は捕まったの?」
「いや?犯人と言われている奴は自殺してるし、投書にあった真犯人が毒を混入したと言う証拠がないから、そいつも普通にこの学校にいるぞ?」
「うそっ!!」

その言葉で義勇はようやく危機感を感じた。
もしかして下手をすれば自分達だって殺される可能性があるんじゃないだろうか…
そう思ったが錆兎はあっさりと
「まあ…お前は大丈夫だと思うけどな」
と言う。

「…え?」
とそれに義勇が首をかしげると、錆兎は笑う。

「一応な、動機は成績争いだって言われてるから。
この進学校でトップ争いに食い込むだけの成績をとれないだろ?」
「うん…」

人によっては怒るところなのだろうが、義勇は別に気にならない。
というか、錆兎が言ったことに腹なんてたつわけがない。
しかしそこで義勇にしては珍しく気づいた。

「え?でもっ!でもそれだったら錆兎は頭良いんだし危なくないのっ?!!」

そう言ってしがみつく義勇に錆兎はやっぱり笑って…そして言う。

「そうだな。
ターゲットになれるように久々に頑張って勉強しなくちゃな」












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