学園警察S&G_第2章_再会

「…あ……さびと…なんで……」

結局納得しようとしまいとさして役にたちそうな能力などないので拒否権などあるはずもなく、指令の通りに私立月陽学園に転入した義勇。

全寮制の学校なのでまず自室に手荷物を置いて、今回の仕事の相棒がいるはずの寮の隣の部屋のドアをノックした。

すると中から出てきたのは非常に覚えのあるイケメン。
そう、イケメンだ。

義勇が知っているなかでは世界一のイケメンで世界一賢くて世界一勇敢で…そして世界一優しい男…鱗滝錆兎。

ああ、そうだ。
うっかり忘れていたが、
──久しいな、義勇。
と、旧知の仲だが、最後にあってから今日までもう2ヶ月と7日もたっていたので、そう言う彼の言葉で思い出した。
そこに義勇が知る限りで世界一のイケボも追加される。

元名門進学校の首席で高校生の剣道の大会の全国優勝者という文武両道を体現したような知性を感じさせる…しかも凛とした雰囲気のある整った顔立ち。
それが義勇よりも頭一つ上の位置から義勇を見下ろしている。

ああ、カッコいい…。
とまず見惚れていると、綺麗な形の凛々しい眉の眉尻が少し下がって困ったように笑う。

「なんかまたフリーズしてるが、とりあえず入れ」
と言われて義勇はやっと我に返った。

そうだ、今は錆兎に見惚れている場合じゃない。
というか、もしかして自分のせいでまたとんでもない事態が巻き起こされているんじゃないだろうか…。
覚えがあり過ぎて内心慌てて言葉のない義勇の肩を軽く抱いて、錆兎は義勇を部屋に招き入れるとドアを閉めて念のためと鍵をかけた。


「錆兎…もしかして俺のせいで今回の任務に放り込まれてたりする?」

そう…錆兎はいつでも学園警察としての能力に欠ける義勇が任務に入る時に一緒に放り込まれる。
なんでも人並を遥か宇宙に突き抜けたレベルでこなせる能力のある錆兎なら、任務なんて選び放題なのに、だ。

申し訳なさで縮こまる義勇。
だが錆兎は機嫌よくマグカップを出してなんだか良い匂いのするティーパックを放り込み、注いだ湯が綺麗な褐色色になるとそこにピンクの液体に入った氷砂糖をティースプーンに2杯入れてかき混ぜて義勇に渡してくれる。

そしてまず
「訂正な?
お前のせいで任務に放り込まれたわけではない。
何度も言うように俺の方からお前の入る任務には必ず俺を同行させるようにと本部に依頼をしている。
そもそもそれが俺がこの組織に入る条件だったからな?」
と言うと、自分の分は割合と粗雑な感じにカップに緑茶の粉茶をいれて湯を注いでかきまぜた。

そう…義勇と違って錆兎は組織の方から望まれて学園警察に所属している。
現場で重宝されるのはその能力の高さゆえだが、所属している理由の一つは口留めで、口留めをせざるを得なくなったのは義勇の失敗のせいだった。


錆兎と義勇の出会いは仕事を遂行中のことだった。
その時は集団万引き犯を探っていたのだが、素人同然の義勇の尾行など当たり前に気づかれていて、校内で万引きした金品を引き渡そうとしていた学生と引き渡される役の大人に囲まれてもうだめかという時に、竹刀一本で助けてくれたのが錆兎だった。

「うちの学校の学生に無体なことは許さんっ!」
と、なんとナイフを持っている大人二人と学生3人を叩きのめし、
「そこのお前、警察に電話!」
と言ったのだが、義勇は裏教育委員会として来ているので、これを普通の警察に言っていいのかどうか戸惑った挙句、なんと本部に確認の電話をかけてしまった。

これで警察より早く本部から人が来てくれたのだが、義勇は動揺のあまりついうっかり錆兎がそこに居ることを伝え忘れていて、明らか普通の警察ではない裏教育委員会の職員が何も知らずに犯人達を連行するため駆け付けてきた。

これでバレた。
全てがバレた。

秘密裏に活動をしている組織なのでとりあえず大ごとになったら大変だということで犯人達ごと助けてくれた錆兎まで連行。
その後、上の人たちが錆兎に組織について説明し、口外しないで欲しいと頭を下げる羽目に。

そこで全てを聞いた錆兎がした質問が、組織では護身術も身に着けていない学生にこんな危険なことをさせて平気なのか?ということ。

それに対しては同席していた義勇が、自分で自分の事情を話した。
どうしても現場に居たかった…でも……とそこで俯く。

こんな前代未聞の不祥事まで起こしたら、それでなくとも特例のような扱いで現場に居させてもらえたのもさすがにダメになるだろう。
そう思うと膝の上に握り締めた拳に涙がぽたぽたと零れ落ちた。

その様子を見ていた錆兎がため息をつく。

「わかった!口外はしない。
その代わり俺もここの仕事に就く」

その言葉に職員達の顔が明るくなった。
そりゃあそうだろう。

成績が大変宜しければ普通に進学校にも潜入できるし、護身術も心得ているのだから、喉から手が出るほど欲しい人材だ。

「ぜひっ!!」
と、義勇の時とはかなり違って前のめりになる職員に、錆兎は、ただし…と付け加える。

「これから義勇を任務にいれる時は必ず俺を呼ぶこと。
義勇の同行は些末な任務でも無条件に引き受ける。
ただし…そのほかの任務は拒否権を発動できること。
以上だ」

本部でも優秀なメンバーは確かに振れる仕事も多い分その中から仕事を選べるので問題はない。
職員達は喜んで同意した。


…というのがこれまでの経緯で……

つまり今回、本部がこの仕事にいれたかったのはおそらく錆兎なのだろう。
そのために自分をこの任務につけたのだ…と義勇もさすがに察した。

あの時錆兎が義勇の同行を条件にしてくれなければ、おそらく義勇は二度と現場には出してもらえなかったに違いない。
それがわかっていて…賢いだけではなく優しい錆兎は義勇がそうならないようにあの条件をつけてくれたのだ。

そうして今回、錆兎は本当は面倒かもしれない任務に義勇のせいでつかせられている。
本当に申し訳ない。
申し訳なくて顔も上げられない。

だからと言って泣いても錆兎が困るだけだと思うのに、ぽろりと零れてしまう涙。

それを綺麗なハンカチでそっと拭きながら、
「元気そうで良かった。
なかなか会える機会がないから元気にしているかどうかずっと気になっていたんだ」
と優しい声で言ってくれる錆兎に、なんか色々いっぱいいっぱいになって、義勇は泣きながらしがみついた。











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