「飛鳥改っ」
巨大カマキリの群れに向かいながら錆兎は左右に手にした刀を交差させたあと、一気に両腕を広げた。
すると二本の刀の間から赤く燃え上がる鳳凰が現れてかまきりを一気に焼き払う。
さらに意思を持つ攻撃ゆえ敵味方を区別して攻撃すると言うおまけつきだ。
前回不死川を救ったのはまさにこの一撃だった。
羅刹モードに入ってからずっと、ピキピキと全身の筋肉が悲鳴をあげるのはなんとなく感じるが、羅刹状態でいる間はそれも動きを止めるには至らない。
苦痛も疲労も押し込んで、体中が闘気に満たされる。
前方の雑魚を一掃して鳳凰が再び刀に吸い込まれると、炎の中から3つの人影が現れた。
以前に一度使ったきりだったこの能力も、自身が成長して体ができてきた今なら以前よりは長持ちするはずだがそれでも3人相手となると一人にかけられる時間はそう多くは無い。
錆兎は一気に間合いをつめた。
手負いの敵はそれでも戦闘心は全く落ちてないのか、一人は大きく跳躍して距離を取り、二人は錆兎の左右に分かれて迫って来た。
「朧改」
錆兎は唱えて周りに多数の刀を発生させる。
通常時には敵の攻撃を吸収する力しかもたないそれも、羅刹時には致命傷までは与えられないものの、攻撃を吸収しつつも近づく者にダメージを与える武器の機能も合わせ持つ。
羅刹モードでは全ての技が攻撃力を持つが、技は使うたびまた、自分の身体にもダメージを与えていく諸刃の剣となるのだ。
2回目の技を使った事でおそらく羅刹を解いた時のリバウンドがひどいだろうことは容易に予想出来た。
これ以上はなるべく迅速に、なるべく通常攻撃で、と、錆兎はとりあえず左の敵は無視をして右側の敵に集中した。
「まず一体!」
ザシュっと音をたてて血飛沫が舞い、敵が倒れる。
もう少し苦戦するかと思ったが、義勇のかけたスピードと攻撃アップの支援がかなり聞いているらしい。あっけないほど簡単に敵が倒れた。
と、その時…不意に美しいメロディーが夜の闇の中に響き渡った。
それと同時に青い光が錆兎の体にまとわりつき、筋肉の悲鳴がなりをひそめ、その代わりになんとも言えない癒しが全身をつつむ。
一瞬その不思議な感触に気を取られたすきに、左の敵がつめよってくるが、朧にはねとばされてかえって軽くダメージをうけた。
しかし敵はもう一体いる。
錆兎から距離を取って杖をかまえていた敵の攻撃は錆兎の横を通り越して一路後ろの光の元へと伸びた。
「やばっ!」
思わず後ろを振り返ると、義勇の前に立ちはだかった不死川が義勇を抱えて横に大きく避ける。
ああ、そうだったな。
後ろは大丈夫だった…
と、ジャスティス以外の人間の中でおそらく最強が見せてくれる鉄壁の守りに安堵しつつ、錆兎は最後の大技を使う。
「幻界…夜叉っ!」
唱えたとたん錆兎を中心に炎が広がった。
敵の視界から炎の中の錆兎以外の景色がきえる。
幻界夜叉。
羅刹モード時のみ発動可なこの技は全ての敵の注意を完全に自分だけにむける技だ。
炎自体にはそれほど殺傷力はないが、多少の熱さと遮られる視界で、敵は完全に錆兎にのみ敵意をむける事になる。
それでもまず万が一の事を考えて後ろに攻撃の行きやすい遠隔系の敵から切り捨てようと敵後方に跳躍すると左側の敵があわてて戻って錆兎に向かって生き物のようにうごめく鞭を振り下ろした。
錆兎は致命傷にはなるまい、とそれを放置して遠隔の敵に向かうが、左肩後方に傷を作るはずだったむちは光のヴェールにあっさりとはねかえされた。
残った朧と強力な光の防御がカバーしたらしい。
錆兎はおぉ~っと感嘆の声をあげる。
そして隙のできた左後ろの敵を振り向き様切り捨てると、即跳躍してあわてて呪文を唱えようとする最後の敵の頭に刀を振り下ろした。
「変形…」
最後の敵がその場に崩れ落ちると、錆兎は刀の柄に指を二本置いてそう唱えて通常モードに戻り、敵が確かに息を止めているのを確認して、後方の不死川と義勇の所に戻った。
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