──不死川君っ!!
不死川の言葉をカナエが青ざめて遮った。
義勇の戦闘の様子を早々に確認したがった理由はこれだったか…と錆兎と真菰は瞬時に察する。
すでに両親を失っていて唯一の肉親である蔦子のいる極東支部が壊滅したとなれば、義勇は当然立ち直るのに時間がかかるだろうし、当分正確な戦闘データは望めない。
まあ…蔦子の友人である前に全鬼殺隊のブレインを束ねるブレイン本部長とすればこれは当然の判断だ。
…と自分達も義勇と同じ立場になったとしてもそのあたりは冷静に受け止めるであろう二人は思ったわけなのだが、義勇はどうだろうか…
不死川もたった今情報を得て慌てて情報の共有と話し合いをと飛び込んできたのだろう。
そこに当事者である極東支部組のジャスティスが揃っていたとは思ってもみなかったらしく、自らの失言に顔から血の気が引いている。
──…わ…悪ぃ……
と、彼にしては珍しく小さな小さな声で謝罪をするが、普段ならなんでも笑顔で
──大丈夫よ。気にしないで。
と返してくるカナエからは返事がない。
彼女も他人を気遣う余裕がないようである。
重すぎる沈黙。
それを最初に破ったのは錆兎だ。
「とりあえず、他の支部の状況がどうであれ、本部には殲滅すべき敵が迫っているんだろう?
いい。俺が出る。
規模はどのくらいだ?」
その言葉にカナエが心底ほっとした様子をみせた。
良くも悪くも常に笑顔で感情が見えない彼女にしては珍しいことである。
「えっと…ね…今回ね、割と近場でイヴィル3人と雑魚が山ほど…たぶん10体以上くらい?わいているの。
これだけならまあ大勢で行けば済むことなんだけど問題はね、ちょっと遠くだけど同じくらいの量の敵が確認されていることで…。
そちらの出方次第では近場の敵を倒して戻る前にその今は遠くの敵を倒しに行かないとだし、それプラス本部の護衛も必要。
先日壊滅した豪州支部のジャスティスが亡くなって安置所に戻ったジュエルが2つ安置されているから。
ということで最大で3つの班に分けないとなんだけど、理想は絶対に戦闘不可避な近場の敵を早々に倒して遠方の敵の殲滅と本部の護衛に加わってもらいたい。
そうなると…申し訳ないけど錆兎君が一番殲滅早いかなって…。
でもあとの2班を考えると近場の敵殲滅に割けるのはぎりぎり一人。
遠方班用に真菰ちゃんとしのぶか蜜璃ちゃん。
遠隔は二人とも本部の護衛に残ってもらって、その二人の護衛に炭治郎君が欲しいから。
本部は死守しないと…」
ごめんなさい…と頭を下げるカナエに錆兎は『俺はいい』と小さく息を吐き出した。
「ただし義勇はダメだ。
正直その数を一人でやるなら他に構っている余裕はない。
単騎で出る」
「…じゃあ今回はそれで……」
と、一人でその数を対処してくれと言うのはさすがに無理を言っている自覚はあるのだろう。
カナエは譲る姿勢を見せたが今度は義勇が
「い、いやだっ!!俺も行くっ!!
錆兎と一緒に行くっ!!」
と泣きながら錆兎にしがみついた。
「いや…だから……」
「やだあぁあーーー!!!
独りはやだっ!!独りにしないでっ!!!」
と号泣する義勇に戸惑う一同。
──…お前、いい加減に……
今の状況が状況だけに皆が遠慮して何も言えない中で一番近しい宇髄が口を開きかけるが、それを制したのは不死川だった。
「わかったァ。
俺も一緒に出るわ。
でもって両方責任もって連れ帰ってやるから」
その言葉に慌てるカナエ。
「え?え??でも本部長が現場なんて……」
と焦って言う彼女に、不死川はぼりぼりと頭を掻いて言う。
「問題ねえよォ。
錆兎は一気に片付ける気だから、せいぜい打ち漏らしても魔導生物1,2匹だ。
でけえのはこっちに寄こさねえし、イヴィルじゃなきゃ俺らでも倒せる。
でもって…重要なのは羅刹使ってへばってる錆兎を抱えて帰ることができる奴が必要ってことだろォ?
どう考えても嬢ちゃん…じゃねえ、坊ちゃんがでけえ錆兎を担いで帰るなんて無理そうだしな。
打ち漏らしが坊ちゃんに行かねえように撃退する要員兼錆兎抱え要員なら、俺が最適だァ」
そう言う不死川。
一瞬の言い間違いにしまった!とばかりに義勇に視線をチラリと向けて言い直したが、義勇はどうやら自分の要望が不死川のおかげで通るようだとわかって
──別に嬢ちゃんでも坊ちゃんでもいい…。ありがとう…さねみ。
と鼻をすすりながら礼を言った。
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