それからしばらくまた鍛錬をしたが、これもいつもと同じように任務が発生した時に疲れを残さないように早めに切り上げることにする。
そうしてそのまま部屋に戻ると当たり前についてくる義勇。
…というか、もう自分の荷物のほとんどを錆兎の部屋に移動済みだ。
錆兎は錆兎で実は日常はあまりこだわりの強い方ではないので、そんな義勇にすっかりと流されて、この居候状態を受け入れてしまっている。
「飯…どうするかな…」
と、シャワーを浴びて着替えて出てきて言えば、
「ご飯、下ごしらえして出たからすぐできるよっ」
と、エプロン姿の義勇がウキウキした顔でキッチンから顔を出した。
錆兎的には自炊はしないのでいつもなら食堂で摂るか食堂から持ち帰って自室で摂るかで、その二択のどちらにするかという意味で言ったのだが、日々多忙な身としては自室に居て出来てくるならそれに越したことはない。
流されていつのまにか始まりつつあった同居生活だが、食事が出てくるなんていい意味で想定の範囲外だ。
悪くはないな…というか、ありがたいかもしれない…と機嫌よく思う。
しかも…確かに同性のはずなのに妙に可愛らしい、まるでドラマで新妻が身に着けているようなフリフリのエプロン姿の義勇がテーブルに並べていく料理はどれも美味しそうだ。
自分のためだけに作られた家庭料理…。
そんなものを用意された経験のない錆兎はなんだか感動すら覚える。
そして並べ終わって二人差し向かいに座って
──いただきます
と手を合わせて食べてみると、これが美味い。
本当に美味い。
鬼殺隊の食堂は種類も豊富だし味もとても良いのだが、義勇の料理はそれに負けず劣らぬくらいには美味かった。
──美味いなっ。
と一口口にして思わず漏れる声に
──良かったっ、口にあって。
という言葉と共に返ってくるほわっとしたした笑み。
これは落ちるだろう。
普通の男ならまず落ちるな。
…と、まるで料理上手な可愛い幼な妻のような様子に錆兎は内心ため息をつく。
「その顔でその笑顔でこんな美味い飯出されたら、大抵の男は勘違いして落ちるだろうな。
お前に血迷った男たちが少しばかり気の毒になってきた…」
とそれをそう口に出して言えば、義勇は丸い目をきょろんとさらに丸くして、そして笑って言う。
「今までご飯作った相手は家族だけだよ?
父さんと姉さんと天元と。
他は見た目で勝手に寄ってきただけだと思う。
でも……これで錆兎が俺を好きになってくれるなら嬉しいなっ。
錆兎がずっと一緒に居てくれるなら、俺は錆兎のためだけに毎日美味しいご飯だけじゃなくて家事全般を一所懸命やるよ?」
「…お前…なぁぁ……
その辺でやめておけ。
俺だってまかり間違ったら血迷うぞ?」
「え~?血迷ってよ。
俺を好きになって?」
もう本気なんだか冗談なんだかわからない。
親友である義勇の姉からくれぐれもと頼まれているのであろう鬼殺隊の権力者であるブレイン本部長のカナエからさらにくれぐれも…と念押しされているのだから、自分は絶対に血迷うわけにはいかない。
(…これは幼な妻じゃなく幼い弟、そう、お手伝いが大好きな幼い弟だ)
と心の中で何度も自分に念押しをして、錆兎は緊張でやや味がわからなくなりかけてきた料理の残りを平らげることに集中することにした。
0 件のコメント :
コメントを投稿