凡人(なみびと)百舞子(もぶこ)は極東ブレインの中堅部員だ。
この中堅という文字は自分にとてもよく似合っているとモブ子は思う。
良くも悪くも特出したところのない本当に中くらいの人間。
鬼殺隊に入ったのだって実家が代々鬼殺隊のブレインに所属していたからだ。
組織というモノをスムーズな状態で維持するには当然手続き手配、果てはコピー取りからお茶くみまで、雑用係というものが必要となる。
モブ子の家は代々そんな研究者集団ブレインの末端に属する事務員をやっていたのだ。
数年前の事である。
新人のモブ子が彼女と同じく身近な人以外にはほぼ認識されない非常に目立たない従姉妹に連れられて各所を案内されていた時、まず感動したのがなり立てほやほやだと言う医療支部長の麗しさだった。
さらさらの漆黒の髪を緩く後ろでみつあみにしていて、笑顔が優しくまさに白衣の天使そのもの。
そのあまりの麗しさに思わず
──写真お願いできませんかっ?!
といきなり医務室に飛び込んでしまったくらいだ。
彼女…冨岡蔦子嬢はその勢いにびっくりして固まったが、
──あんた、いきなり何かましてんのよっ!!
とパッシ~ンと従姉妹に後ろからどつかれたモブ子を見て、あらあら、と優しく笑って
──まだ仕事中だから白衣のままだけど良いかしら?
と、なんと快くOKを出してくれたのである。
やったっ!!と、
──ありがとうございますっ!!
と礼を言いつつカメラを取り出すモブ子。
そこで医療部の一部がざわついた。
──なんでいきなりあんなすごいのが出てくるんだ?
と医療部では数少ない男性看護師がつぶやく。
どうやら彼はカメラの価値がわかるらしい。
──あんなのって?
と不思議そうに首をかしげる周りの看護婦に
──…軽く俺らの給与3か月分くらいの値段の高給カメラ…
と言いつつ、良いなぁ…とため息をつくところを見ると、彼も写真が趣味なのかもしれない。
そしてその言葉にざわつく一同。
──すごいカメラなのね?
とその言葉が聞こえたらしい蔦子も驚いたように言いつつ、その後少し考え込む。
──えっと…モブ子さん…だったかしら?
──はいっ!
──少しね…お願いしても良いかしら?
──もちろんっ!!美人のお願いならなんでもっ!私綺麗な人大好きなんですっ!!
勢い込んで言うモブ子の言葉に周りの看護師達は引き、従姉妹はその暴走を食い止めるべく腕をつかむが、蔦子は
──それならちょうど良かったわ
と笑顔で胸の前で手を合わせる。
──私ね、可愛がっている弟が居るんだけど、たくさん写真を残したいの。可愛い子なのよ?
その言葉が蔦子とモブ子の友人関係の始まりだった。
そう…モブ子はその時から蔦子が溺愛する弟義勇の撮影係に任命されたのである。
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