青い大地の果てにあるものsbg_第66章_実弥と錆兎の初合同任務

「まあ俺も実はいつのまにか…というか、気づいたら第三段階までいってたクチなんで、どうすればとかはわからん。
とりあえず…当座はいつもよりも少し厳しい状況で鍛えて鍛えて鍛えるしかないんじゃないか?」
と、最後に錆兎が自分の時のことを語ると、善逸が小さく(…でたよ、脳筋理論が…)と零して、それを耳敏く拾った宇髄が小さく噴き出す。

そんな善逸達の反応はガン無視でしのぶが
──質問ですっ!
とピシッと手をあげた。

──なんだ?
と錆兎。

「錆兎兄さん、第三段階は危険なものだと言ってませんでしたっけ?
大丈夫だったんですか?」
「あ~それな…」
と錆兎は苦笑する。

「第三段階を使った時のことはよく覚えてる。
実弥と初めての任務で俺がな、ちょっとミスった。
で、真菰の二段階の時と同様、ああ、このままじゃやばいなと思ってたらなんか降りてきたというか閃いたというか…たぶんジュエルの方からの啓示みたいなもんだったんだろうな。
で、それで乗り切ったのは良いけど本当に数分でボロボロになって、実弥に抱えられて帰還して、1週間ほどベッドから起き上がれなかった。
それからリハビリに半月ほど?
その間は真菰に負担が行って迷惑かけたな」
「ほんとだよっ!」
とそれに普通ならそんなこと…と言いそうなところなのだが真菰は容赦なく言い切った。

しかしその後に続く
「あんたが使えなくなったら全部あたしにしわ寄せがくるんだからねっ!
あの時はあたしさねみんとこに怒鳴り込んじゃったもん!」
の言葉には素直ではないが強い仲間愛が感じられる。
それに善逸はほんわかした気持ちになった。

「とりあえず…その時のことが知りたければさねみんに凸すればいいと思うよっ。
本人以外で近くに居た人間からも話聞いても良いかも」
と、さらに続く真菰の言葉に、錆兎は複雑な表情で
「それはやめてさしあげろ」
と言う。

その反応に全員不思議な顔をしたが、その後に探究心が強く、さらに容赦のない性格のしのぶを前面に出して善逸と蜜璃の3人でフリーダム本部に行って実際に聞いてみて理解した。


──錆兎兄さんが第三段階に目覚めた時の戦闘についてお聞きしたいんですけどっ
と自分よりも頭2つほど大きな不死川に臆することなく、その一見怖そうな彼を見上げて聞くしのぶに、なんと不死川は頭を抱えて
──…それ…錆兎が聞いて来いってかァ?
となんだか半泣きのような表情で言う。

その時点で善逸は詳細はわからないまでも錆兎が──やめて差し上げろ、と言った意味がわかった気がした。
どうやら不死川にとってそれはなんだか辛い過去らしい。

ここで善逸だけだったらもう良いですと帰るところなのだが、しのぶは引く気はない。
ただ、そこは正確にと思ったのか、

「今ジュエルの共鳴率のあげ方について色々話をしていて、その一環で錆兎兄さんがジュエルの第三段階に目覚めた時に一緒にいらしたのが不死川さんだったとお聞きしたので。
当人以外の人間が何か気づいたことがあるかもしれないから聞いてみると良いと真菰さんに勧められて来ました」
と、事情を説明する。

それを聞いて不死川は、はあぁぁ~~と彼にしては珍しく大きくため息をついて肩を落とした。
そして
「気づいたことがあるかと言ったらなぁんにもねえ。
…それどころじゃなかったしなァ」
と首を横に振る。

──そうですか、じゃあっ…
と善逸はそれで撤収しようとしたが、しのぶは動かない。

それどころか
「なんだか不死川さん、様子がおかしいですよね?
何か隠されているように思うんですけど…」
と突っ込んでいく。

うああぁあっ!!…と内心焦りまくる善逸だが、しのぶは引く気がないらしく、長い睫毛に縁どられた黒目勝ちの大きな目でジッと不死川を凝視していた。

臆したのは不死川の方で、タジタジと言った感じで後ずさるが、しのぶはさらに距離を詰める。

──本当に…参考になるようなことはなかったと思うぞォ…
と恐る恐る言う不死川にしのぶはきっぱりと
──それを判断するのは不死川さんじゃありませんっ
と言い切った。

こっわ…しのぶちゃん怖いよ、殺気立ってるよ…
と善逸も思わず後ずさるが、
──私は早く最低でも第二段階に目覚めて戦闘で錆兎兄さんのお役にたたないとなんですっ!
と生真面目な様子で言うしのぶに不死川も諦めたようだ。
ぼりぼりと頭を掻いて口を開いた。

「…あ~…あれはもう6年前かァ…。
俺はフリーダムになり立ての16歳で、錆兎はジャスティスになって2年目の13歳。
元々はイヴィル1体倒すだけの大したことねえ任務だったんで、本部のエースジャスティスの戦いを見て学んで来いとか言われて送り出されたんだァ。
元々喧嘩が強くてそれで鬼殺隊目指した俺は、ただジュエルに選ばれただけの3歳も年下のガキのお守りかよって身の程知らずに思って、面白くなかったんだよなァ。
入隊したてで馬鹿だったからイヴィルがジュエル武器じゃねえと倒せねえってこと忘れてて、なんなら自分が倒してジャスティスより強ぇんだと証明してやるとか頭がわいたこと思っちまったんだよ。
それで錆兎の注意も聞かずにイヴィルに特攻したら、傷一つ負わせられねえどころか、魔導生物が隠れていやがっていきなりピンチ。
人並外れた跳躍力を持つ近距離アタッカーのジャスティスの錆兎だけなら撤退出来たんだろうが、敵のただなかで囲まれてる俺を救出して撤退とかできそうにねえ。
あ~俺ここで死ぬのかァ?って思ってたらな、錆兎の第三段階が発動して…
まあどういうものだったかは期待されても困るから言わねえが、とにかく瞬時に俺を救出しつつ敵を全部倒したのはいいが、敵を殲滅後にジュエルの力を解いた時点で錆兎は瀕死。
それを慌てて担いで本部に戻って真菰に殴られた。
でもって…だ、発動中は俺はちょうど背を向けてたから、発動してから解けるまで、一切錆兎の方を見てねえんだよ。
だからわかんねえ」

「不死川さん、果てしもない許されないレベルの馬鹿だったんですねっ!
錆兎兄さんも命かけてこんなお馬鹿さんを助けるなんて…」

不死川の話を聞いてしのぶが大激怒。
その頃にしのぶが居たならば、きっと不死川は真菰に殴られるだけじゃなく、しのぶに蹴り倒されていただろう。

だが年上の人間にズケズケと暴言を吐いたしのぶを怒るでもなく、不死川はむしろその言葉に同意した。

「…だよなァ。俺もそう思った。
俺が勝手にこじらせて勝手に行動して勝手に危機に陥ったんだから見捨てりゃあ良かったのによォって本当に後悔しつつそう言ったら、錆兎の奴が『ジュエルから特別に与えられた俺の力は保身のためにあるわけじゃない。大切な人間を守るためにあるものだし、大切な仲間を守れて良かったと思うぞ』って言うんだァ、これが。
そこからはもう俺は勝手に親友だと思っていて、錆兎の方もそれを否定することなく付き合ってくれてて今に至るってわけだァ」

「なるほど。錆兎兄さんらしいですね。
…でも不死川さんは大馬鹿野郎です」
と、しのぶは錆兎に対してはどこか誇らしげに言いつつも、兄と慕う相手を死なせかけたという不死川には相変わらず辛辣だ。

「で、でもさ、おかげでフリーダム本部長とジャスティスのボスが仲良くて色々がスムーズに進んでいると思えば怪我の功名だよねっ」
と、怒りの収まらないしのぶに善逸が慌ててそうフォローに入れば、しのぶは少し不満を残しながらも
「…まあ…それは確かに…」
と頷いた。










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