ジャスティスの…というか鬼殺隊の面々のほとんどは現在の極東支部のある小さな島国、過去に日本と呼ばれていた国の血が入っているらしい。
もちろん善逸もそうなのだが正直遠い先祖がそちらの出身だったのでは?くらいな感じで、生活習慣その他はもう本部のある大きな大陸の中心のもので、そちらの文化にはあまり詳しくはない。
そうして昨日案内されたその宇髄の部屋。
善逸が普通に中に入ろうとすると、まず言われたのが
「靴はそこで脱げよ?」
ということである。
言われるままに入り口近くの玄関で靴を脱ぎ、靴は靴箱に。
上がった部屋の中はまるで異世界だった。
板の間の廊下を進むとタタミという極東風の床で、テーブルも低い。
「宇髄さん、変わった服ですね」
部屋の持ち主の服装も変わっていて
「ああ、これは寝巻き代わりの浴衣。日本の古来からの服な」
と青い変わった衣装を身にまとった姿はエキゾチックで目を奪われた。
寝巻き…ということは外では着ないわけで…
極東での人間関係のトラブルがあるせいか、少し他人に対して距離のある感じのする宇髄が極々プライベートな空間に自分を招いてくれている。
それが少し特別な感じがして善逸は嬉しくなる。
先ほどまでは軽く束ねていた長めの絹糸のように綺麗な銀色の髪は下に下ろされていて、宇髄が動くたびサラサラ揺れた。
コトっとおかれた日本の玄米茶というライス入りのお茶を口に含むと、香ばしい香りが口の中に広がる。
そうしてそれを飲みつつ聞かれるのは本部の人間関係…だが、おそらく揉めていると思われるフリーダムのことよりも錆兎の事が中心だ。
そのあたりで善逸は悟る。
「宇髄さんの世界ってさ、極々少数の大切な相手と少数の友人、その他はもう知人も敵もどうでもいい人間も全部一緒くたになった多数の人間て区分けで構成されてるみたいだよね」
あ~お茶が美味しい…と湯呑の茶を飲みながらため息交じりに言う善逸に宇髄は驚いたように目を丸くして、次の瞬間心底感心したように
「お前…すっげえなっ!
遠隔ジャスティスの優れた視覚で空気まで見えてるのか?ってレベルだなっ」
と頷いた。
「いや…だってフリーダムより錆兎のこと気にしてる辺りで普通にわかるでしょ?
自分に対して全面的に善意で接してくれる相手より、敵対されるかもしれない相手を気にするよ、普通。
だって前者は気にしなくても問題は起こらないけど後者は放置すると面倒だもん」
「そうなんだろうけどな。
普通、他人の発言でそこまで察しねえって」
「…俺は孤児で察しないとやっていけなかったから…」
「あ~そういうことな。
まあ俺も似たようなもんだけど…」
「え?宇髄さんて孤児なの?」
「いやいや、すっげえ古いうるせえ家だけど…役立たずは人権ねえから」
「…ひえっ…」
目の前の極東ジャスティスは強くて堂々としていてしかも目を惹くほどの美形なので自分なんかとはとても共通点があるように思えないが、とりあえず臆病ではあるが好奇心の強い善逸はその身の上に少しばかり興味がわいてきた。
そして言う。
──えっと…嫌なら聞かないけど、嫌じゃなければ聞いていい?
とおそるおそる切り出すと、宇髄は
──聞かれたくねえことを言葉に乗せる馬鹿はいねえだろ
と、全く気にすることなく話してくれた。
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