青い大地の果てにあるものsbg_第59章_鬼殺隊女性陣の秘かな楽しみ

「綺麗な顔だなぁ…」
朝、善逸は自分を抱き枕のように抱え込んでいる宇髄の寝顔を見上げて呟く。

前日…鍛錬を終えて部屋に戻ろうとしていた善逸は鍛錬室で鍛錬をする宇髄を見かけて観察をしていた。
先日極東支部から転属されてきたばかりの遠隔系のジャスティス。
向こうは覚えていないだろうが、実は極東支部にも行ったことのある善逸は彼とも面識はあった。

割合と要領の悪い善逸は同僚に小馬鹿にされることが多い。
そしてその時も一緒に行った本部のフリーダムの同期にそのヘタレ具合を馬鹿にされていたのだが、相手は疲れていたせいかいつもよりも執拗で、馬鹿にされ慣れている善逸でも少し滅入りかけていた。

が、そこで通りがかりの宇髄がすれ違いざまにボソリと
「てめえも大したことねえ奴に限って他人を落としたがるよな。
そういうの、目糞鼻糞を笑うって言うんだぜ?」
と言ったことで、同僚は怒りと羞恥と色々で真っ赤になって一瞬黙り込み、しかし立場的に上と思っているジャスティスに言い返すことも出来ず…宇髄が完全に通り過ぎて遠ざかってから、今度は宇髄の諸々に文句を並べ始めて、それまで口にしていた善逸に対する諸々は頭から消えてしまったようだった。

宇髄は別に善逸を助けるつもりで声をかけてきたわけじゃないかもしれないが、かなりへこみかけていたその時の善逸にとって、その時の宇髄はヒーローのように思えたのである。

当時は滅多に他人に優しくされることなどなかったので、その出来事は善逸にとっては忘れがないものだった。
だからジャスティスに選ばれて周りの目が優しさに溢れて立場が少しばかり高くなっても覚えていたし、今回、宇髄が本部に来たら絶対に親切にするんだ、と心に決めていた。

そうして不死川とのトラブルの時も柄にもなく間に入ってみたり、錆兎にも宇髄がこちらに慣れるように自分にできることがあればと申し出てみたりしつつ、宇髄をみかけると少し注意を払うようにしている。

昨日の宇髄の鍛錬の見物もそんな一環だった。

善逸が見物を始めた頃には鬼殺隊の女性陣が大勢集まっていた。

錆兎や炭治郎達、ジャスティスの男性陣は色々戦闘以外には関心が向いていないのもあって気づいていないが、人気の男性陣を追い回す女子の中には数種類の人種がいるのに善逸は気づいている。

まずは単にカッコいい人間を見て楽しいだけの人種。
いわゆるアイドルを応援して満足するような女性達だ。

彼女達はまあ害はない。
カッコいいアイドルを見てきゃあきゃあ騒いで盛り上がるのが楽しいというだけだ。
錆兎も炭治郎も集まっている女性陣は皆、ジャスティスという特別な能力を持っている強い人間を見てはしゃいでいるだけだと思っている。

これは一部正しい。
だいたい集まっている人種の半数くらいはそんな感じだ。

──宇髄さんカッコいいよねっ!推せる~!!
──うんうん、遠隔なのに棒術まですごいよねぇ!!
などときゃらきゃら笑っている少女達は可愛い。
なんなら善逸もその中に入っておしゃべりに加わりたいくらいだ。

そして彼女達と違って宇髄に視線を向けながらもせっせと化粧に余念がなかったり高級ブランドのタオルを持って待ち構えている一団。
ガチ恋勢だ。

彼女達は目当てのジャスティスの彼女になることを目指している。
当然同担拒否なので、他の女性陣と群れたりはしない。
というか、なんなら火花を散らし合っている。

このあたりは怖い。
下手に突いたら呪われそうな勢いなので善逸も極力見ない聞かない突かないを徹底している。

ターゲットは完全に一人で、今までだとだいたいは錆兎、たまに炭治郎とかだったが、今回、宇髄担の女子もかなり増えたことと思う。

正直、昨日宇髄が善逸にタオルを貸せと言ってきた時の彼女達の視線は怖かった。
一瞬殺気立って…しかし相手が冴えない男の善逸だと思ってなんとか持ち直した感じである。

だが…そのまま流れで宇髄の部屋で色々本部のことだとか他のジャスティスの事だとかを聞かれて、最終的に泊りになって、雑魚寝…までは良いにしても、寝相が悪いのだろうか…朝に目を覚ました時には抱き枕代わりにされていたことまで知られた日には殺される自信はかなりあった。

まあとりあえずガチ恋勢の事は置いておいて…別の意味で怖いのが最後の一群。
腐女子達。
そう…男性同士の恋愛を妄想するのが大好きな例の人種である。

鬼殺隊はほとんどが男なので妄想し放題だ。
もちろんその中心には錆兎とか炭治郎とか不死川とか、非常に目立つ男達がいるのは当然だが、その相手としては必ずしも目立つ人間ではない、それこそ善逸とかだって名があがったりしているようである。

おそらく今回、錆兎が義勇を助けた話とかはもう彼女達の間では広まるだけ広まって、今頃はどうやら本部だけではなく各支部にも頒布されているらしい鬼殺隊の腐女子の間では有名な雑誌では錆兎×義勇の物語がすごい勢いで描かれていることと思う。

まあそれはいい。
所詮他人事だし、それで義勇のメンタルに何か来たとしても、錆兎は心身ともにジャスティス最強なのでなんとでもできるだろう。

だが問題はこれだ…。
今のこの状況。
絶対に彼女達にバレたらまずい。
今のところ善逸が予測するに宇髄と不死川のカップリングが優勢だと思う。
仲が悪かった二人が次第に…という展開は彼女達の大好物だ。
だが今寝ぼけている宇髄に抱え込まれている自分の図が外に漏れたら善逸も絶対に渦中の人になること請け合いである。

まあ別に日々大変な仕事をこなしているお嬢様達の娯楽になれると言うなら妄想されるくらいなら仕方ないと言えば仕方ないのだが、善逸は女の子が大好きだ。
どうせなら可愛い女の子のガチ恋勢が出現するとかの方がありがたいし、もしBL展開が有名になりすぎると、そういう可能性が限りなくなくなってしまう。

……まあ…そういう展開で有名にならなくても可能性ないかもだけど……
とため息をつきながらも、完全には諦めきれない。
そんな悲しい男心なのである。









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