──え?なんで宇髄さんまで棒術の訓練なんてしてんの?
夕食後も炭治郎に引っ張られて仕方なしに少しだけ運動器具で筋トレをすませたあとこっそりと訓練室を抜け出した善逸は、ふと通りかかった道場で一人で棒を振る宇髄の姿を目にして靴を脱いで板の間にあがった。
なので仕方がないので善逸その場に胡坐をかいてすわった。
そして長めの髪を低い位置で軽く束ね、時にヒュンっ!と鋭い音を立てて棒を突き出し、時にクルクルっと回転させながら自分の前の位置で構える宇髄の舞を舞うような美しい動きを目で追う。
こうしてみると本当に綺麗な男だ。
義勇のように少女と見間違えるということはさすがにないが、サラサラの銀色の髪に綺麗な切れ長の目、薄めの唇も形よく、全てが美しく見える位置に計算されて配置されたような完璧な美青年である。
自分以外の本部のジャスティス周りは顔面偏差値の高い人間の集まりだと善逸は常々思っていたのだが、炭治郎はクルクルとよく動く目が愛らしく真面目で実直そうな雰囲気が好ましい、どちらかと言うと可愛らしいと言える顔立ちで、錆兎は精悍で綺麗と言うよりはカッコいい、男らしく整った顔立ちだ。
特に錆兎などは容姿の良さよりも先にその頼もしいオーラに当てられると言った感じで、見惚れるとしたらそのどんなものも粉砕できそうな武術的な動きの頼もしさに目が行くが、宇髄の鍛錬風景は確かに棒術の鍛錬のはずなのだが、まるで芸術作品を観賞しているような気持ちになってしまう。
しばらくそうしてみとれていると、
「ほぉ…棒術なんて珍しいなァ」
と上から声が降ってきた。
聞き覚えのあるその声に善逸はぎょっとする。
不死川実弥…フリーダム本部長。
そして…宇髄とは色々因縁がある人間のはずである。
なので焦る善逸だが止める間もなく不死川は棒を手に道場の中央の宇髄の方に走り出していく。
「ハァッ!」
といきなり気合と共につきだされた棒を自分の棒で受けて、宇髄は一歩飛びのいた。
そしてお互い無言でいきなり打ち合いが始まる。
え?え?これ…止めなくて大丈夫??
でも下手に止めると俺が大怪我するやつだよね???
オロオロする善逸だがそこで
「実弥と互角にやりあってるってすごいな。
かなり鍛えてる感じだな」
という錆兎の声が降ってきて、ホッと安堵の息を吐いた。
事情を全て知っていて、さらにその気になれば彼らを止められる力がある錆兎が落ち着いて見ているところをみると、放置で大丈夫なのだろう。
そう思えば善逸も落ち着いてきて、錆兎の言葉に大いに頷く余裕が出来た。
そう、特殊能力を持たない人間の中では不死川は圧倒的に強い。
確かにジャスティスはアームスの影響で身体能力に優れる者が多いが、しかしそれは無条件というわけではなく、アームスの性質によって優れる種類が違ってくる。
たとえば攻撃特化型の錆兎や真菰、蜜璃達はそれに必要となってくる反射神経や腕力、跳躍力などが底上げされ、防御型の炭治郎は元々の防御が高くて傷を負いにくく、負っても治りが早い。
そして遠距離から敵を攻撃する善逸は目や耳など遠方の敵を感知する能力が人並みはずれている。
宇髄も本来遠距離系なのでアームスで底上げされているのは感知能力だけで、体術に関しては常人のはずだ。
それが時に最前線でその人間離れしたジャスティス達のフォローに当たるため常に鍛錬をかかさないフリーダムのトップと互角にやりあっているのだ。
そういう意味では例えばジャスティスであったとしても同じ遠距離系の自分が不死川とやりあったとしても余裕で秒で負ける。
つまり宇髄はジャスティスとしての能力とは全く関係のない体術まで一般人のトップレベルとやり合えるくらいに鍛えているすごい人間と言うことだ。
「宇髄さんの能力って遠くからドッカンて聞いてるんだけど。
いまさら近距離攻撃の鍛錬やってどうするんだろう?」
善逸が筋力トレーニングするのは、あくまで弓で撃つ際に標的がぶれない程度の腕力をつけるためである。
ゆえにいまさら他の訓練をしようとは思わないのだが…
善逸の言葉に錆兎は昼間の戦闘を思い返した。
そしてため息をつく。
「錆兎、何か知ってるの?」
それを聞きとがめて善逸は錆兎を振り返った。
「聞いてどうする?」
「ん~錆兎があまり他人の事情とか話すのが好きじゃないのは知ってるんだけどさ。
でも俺さ、うぬぼれかもしれないけど元フリーダムなのもあるし、錆兎とかみたいに全体見ないといけなくて忙しいとかもないからさ?
宇髄さんが本部に慣れるように一番寄り添えると思うんだよね」
善逸は確かに優しい少年だ。
それに本人の申告通りジャスティスになる前はフリーダムにいたので、状況は他の面々よりはかなり見えている。
そういう意味では本人の申告通り、全体を見るだけでなく何故か義勇の面倒まで見ることになってしまって余裕のない自分の代わりに宇髄の様子をみておいてもらう相手としては適任かもしれない。
最終的にそう判断して錆兎は口を開いた。
「宇髄はアームスがウォンドだから近距離に持ち込まれた時用に棒術なんだろう。
本部だと宇髄に近接やらせるなんて事はありえんが、極東だと相棒がヒーラーの義勇だしな。
あいつは飄々として顔にださないがかなり苦労してきたんだと思う。
本部と違って盾もいないし。
だからいざとなった時の事をいつも考えているんだろうな。
あいつの能力は範囲で発動まで囮のフリーダムが巻き込まれで死ぬ事前提で足止めらしかったから精神的にもきつかっただろうしな。
味方殺すの前提の戦闘だから」
「あ~…確かにそうだったよね…」
錆兎の言葉に善逸はうつむいた。
「平気じゃ…ないよね、きっと」
善逸が言うのに錆兎が続けた。
「平気じゃないから飄々としてるんだろう。
正面から受け止めて滅入ったらもう立ち上がれないし。
今回の戦闘でな、しのぶがイヴィル担当、俺が囮で、宇髄が雑魚掃討って事で説明したら、囮殺す可能性があるからって最初は能力使うのためらった。
それでも決行うながしたら1分だけでいいから心の準備する時間くれって言われたんだ。
本当に平気だったらそんなもん要らないだろう?
でもそこで切り替えようとするあたりが…そうするしかなかった極東の人材事情を物語ってるよな。
本部組のジャスティスだったらそこで断固拒否ってる」
「だよね…」
錆兎は自分には無理だと言ったが、自分でも無理だと善逸は思う。
ましてや蜜璃やしのぶにできるわけがない。
「じゃ、そういう事で話終了。
わかってるとは思うが俺が言った事は他言するなよ、宇髄をも含めて」
黙り込んだ善逸に錆兎が宣言。
「うん、錆兎、ありがとう」
善逸は小さく礼を言った。
恐らく修正漏れだと思います「鉄線に近接やらせる」→宇髄に…かと。ご確認お願い致します。(o*。_。)oペコッあ、1個前の「出勤」も多分出動の変換ミスな気がします^^;
返信削除ご指摘ありがとうございます。
削除修正しました😊