──錆兎さん、すっごく素敵っ!義勇君のピンチに颯爽と駆け付けてくれるなんてきゅん!としちゃうわねっ!
錆兎が去っていく姿を見送りながら、蜜璃がはしゃぐ。
それには義勇もおおいに頷いてしまった。
あの怖い砂田だって追っ払ってくれたのだ。
一般的にはそうして守られることを潔しとするのを男としてどうかと言う人間もいるかもしれないが、世の中には色々な性格の人間が居るし、雄々しく戦う女性だっているのだから、大人しく守られる男がいたっていいじゃないかと義勇は思う。
正直…世の中は古くから男の役割だとか男の性質だとか言われるものを持った女性は許されても逆は許されない女尊男卑過ぎだと義勇は常々思っているのだ。
スーツや戦闘服を着て颯爽と戦いたい女性が居るなら、可愛い服を着て補佐役に徹したい男が居たっていいはずである。
戦いたいという人を否定はしないが、武器を手に戦いたいという感覚はまったく理解できない。
剣よりは包丁を持っていた方が絶対に楽しい。
義勇は勇者よりはお姫様になりたいし、自分が戦うよりは戦う人間のために家で美味しいご飯を作って待っていたい人間なのだ。
まあそういう人種なので、実際誰かが戦わないとならない今の生活を考えると、自分がジャスティスと言っても攻撃をするアタッカーではなくてヒーラーなのは幸いだし、前に立って守ってくれる相手はありがたくて好感度もとても高い。
そのうえ錆兎は顔が良い。
そう、見ていて楽しいレベル、世界の至宝と言ってもいいくらいに顔が良いのだ。
初日とか、普通にしていても十分カッコいい錆兎がまるで王子様のようにピンチに駆け付けて砂田から守ってくれた時なんて、本当におとぎ話のようだった。
蜜璃の言葉で思い出してその時のことを語ると、小さな歓声を上げながら盛大に羨ましがられた。
「素敵っ!本当に小説かドラマみたいねっ!
私もそんな素敵な王子様が欲しいわぁ~」
と言う蜜璃も、実は自分よりも強くて自分を守ってくれる男性を見つけてお嫁さんになるのが夢なのだと言う。
だが、確かに蜜璃は性格が優しくて可愛くて容姿も器量よしなのでその気になれば婿など簡単に見つかる気はするのだが、近接アタッカーのジャスティスなので彼女より強い相手と言う条件がそこに入るとかなり限られる気はする。
そう例えば錆兎とか錆兎とか錆兎とか……
もし蜜璃がそういう意味で彼を好きになれば同性の自分よりはずっと一緒に居て違和感を持たれないかもしれない…と少し不安になって蜜璃より強い人間ということで恐る恐るその名前を挙げてみると、蜜璃に
──錆兎さんと真菰さんはもう同僚と言うよりも先生かお兄さんお姉さんだから…
と、そういう対象としては考えたこともないと言われて、ホッとした。
自分がどういう風に錆兎と一緒に居たいのかと聞かれれば悩むところで、そこでホッとするというのも違うのかもしれないが、少なくとも自分よりも優先する誰かが出来て欲しくない…というのは、なんとなく今自覚した気がする。
一方の蜜璃の方はと言えば、そんな義勇とのやりとりに故郷に残して来た妹とありし日に学校の先輩が素敵だの同級生の男の子が~だの、恋バナとも言えないほど幼い好きな男の子の話に興じた日を思い出して、なんだか懐かしい気分になっていた。
今は割合と立場が近いしのぶはあまり男性に興味がなさそうだし真菰は圧倒的お姉さんで聞いてもらうことはあっても彼女の話を聞くことはなく、今の生活に不満はないのだが何か少し物足りなさを感じていたので、義勇とそんな話をするのはとても楽しい。
蜜璃はとても素直な性格なのもあってそれをそのまま伝えると、義勇の方も
──俺も!蜜璃は何でも聞いてくれてなんだか蔦子姉さんと一緒に居るみたいで楽しい!
と言ってくれて、互いににっこり。
そして一見すると美人姉妹が色違いの可愛いお揃いのヘッドドレスとワンピースで顔を見合わせてにっこりしているとしか思えないその図ににっこり。
結果、食堂に笑顔が広がっていくのであった。
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