まるで波が退くように退いていく一同を唖然と見送る義勇。
──さびと…すごいね…
と言えば、蜜璃が隣でうんうんと頷いた。
きょろんと揃って小首をかしげる様子はなんだか愛らしくて、周りは遠巻きながらもほわわ~と見惚れているし、錆兎もなんだか小さく笑みが漏れてしまう。
と言う蜜璃の言葉は暗に自分だとダメなのに…という響きがあるのに気づいて、錆兎は
──蜜璃は優しいからな。俺は殴るが蜜璃は本気で殴ってこないと思っているだけだ。
とその頭を撫でてやった。
そんなやり取りを終えると、
──じゃあ俺は行くから二人でゆっくり飯を食え。
と離れて行こうとするので、義勇がガシッとその腕を掴み、蜜璃は言葉で
──錆兎さんも一緒に食べませんか?
と言うが、錆兎は困ったように笑って
──俺は俺の友人と来てるからな。呼んでくれればすぐ来るから、とりあえずまたあとでな?
とそっと義勇の手を外して離れて行く。
そうして錆兎が向かった先は……
──俺の事は気にせずに嬢ちゃんについててやったほうが良くねえかァ?
と苦笑する男…不死川実弥。
情に厚く一度懐に入れた人間には優しいと言うプラス面では長く持続する一方で、マイナス面では色々あっても根に持たない、気持ちのいい男である。
錆兎とも新人時代に初めて一緒に組んで就いた任務では色々あったものの、和解し互いに認め合ってからは大親友だ。
そんな彼にとっては実弟の死の原因を作った人間の同僚という点を外してしまえば義勇は親友が保護している弟気質の子どもであり、十分自分の保護対象にもなりうるようである。
錆兎も真菰からブレインでのやりとりの情報は共有させられたため、そんな方向に行く予感はしていた。
そう、沸点が非常に低い人間ではあるがいい奴なのである。
一緒に食事の約束をしていた自分を放置で何も言わずにすっ飛んで行った錆兎をとがめることもなく、むしろ事情を察して気遣ってくれる友に錆兎はしかし首を横に振った。
──いや、せっかく俺以外とも仲良くなるいい機会だしな。それに…
──それに…なんだァ?
──あまりに俺が一緒に居ると必要以上に距離を置かれる可能性もあるからな。
──ははっ!違いねえなァ。いきなりみんな吹っ飛ばされたしなァ。
──…少しやりすぎたとは思う…
──まああとで俺も締めとくから気にすんなァ。下のもんが行儀悪くてすまなかったなァ
そう、錆兎に吹っ飛ばされた面々のほとんどが不死川の部下だ。
それもあって、多少の荒事はあとで不死川のフォローが入ると思ってやっている部分もある。
なのでおそらくあとで手間をかけてくれるであろう友人に礼を言うと、錆兎もカウンターの方に自分の食事を取りに向かった。
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