青い大地の果てにあるものsbg_第47章_セコム発動

「ここ!良いかな?!」
「おい!割り込むなよ!俺が先っ!」
「うるせえっ!あっち行けよ、この席は俺のもんだっ!!」
あっという間に蜜璃と義勇の周りの席の争奪戦が始まった。

それでなくても男8に対して女2くらいの割合の鬼殺隊で、しかもその2割の女性陣は医療部に集中している。
そう、それこそ現場仕事のフリーダムにおいてなど、下手をすれば99対1くらいの割合だ。

愛らしい女子がいきなり現れたらこういう現象も十分起こりうる。
というか…もうあまりに女性が居ないので容姿が愛らしかったら男でもありだ。


今までは顔が可愛らしくてスタイルが良くてもどうしても小柄でいかにも美少女なしのぶや真菰と居るとどこか大柄に見えることと、その怪力と大食いでどうしてもそういう対象の女性枠から外れがちだった蜜璃だが、見慣れないファンシーな格好と隣に居る義勇が同じくらいの背で蜜璃が大柄に見えないことで、男性陣が再認識したらしい。

まあ…大食いと怪力は変わらないのだが、そのあたり、男は非常に単純なのだ。


そんな今までにない反応に蜜璃はぽか~んとしているが、義勇の方は顔面蒼白になる。
なにしろ極東では男性部員=フリーダム部員=険悪な関係…だったのだ。

そんな相手が大挙して押し寄せてきたら特殊戦闘員という扱いであるジャスティスだったとしてもヒーラーなので戦闘力ほぼ0の身としては身の危険しか感じない。

いくら真菰やカナエが本部では極東のような関係にはならないから大丈夫と言われても、こんな風に大人数に鬼気迫る勢いで来られた日にはやはり恐ろしいのである。

(怖い…怖い…怖い)
そう思った瞬間に義勇はスマホを握り締めていた。
そしてタップ。
「…錆兎…助けて」
長めの髪に隠れるくらい小さな携帯を耳にあてて小声で泣きつく義勇の様子など誰も目に入っていない。

「今どこだ?!」
「…食堂」
「…すぐ行く」
と一言あったきりすぐ切れた携帯を膝の上で握り締めたまま硬直する義勇。

その間もさすがに
「ちょっと、みんなちょっと落ち着いて?ね?」
と停止の声をあげる蜜璃の言葉すら耳に入らない様子で、争奪戦がヒートアップしていた。

「み、みんなっ!義勇君がびっくりしてるからっ……」
と、自分も動揺しつつも義勇をかばうように抱き寄せる蜜璃。
それに、おお~~!!美人姉妹だっ!と明後日の方向に盛り上がる一同。

不死川の時には言い返した義勇も、あまりの人数と勢いにさすがになすすべもなく、蜜璃にぎゅっとしがみついた。

…と、その時である。
──うああああ~~!!!
と、ものすごい悲鳴と共に、二人の後ろに群がっていた男達が一気に吹き飛ばされた。

──さびとっ!!
義勇がその姿を認識した途端、ぱあぁあ~っ!と嬉しそうな顔ではじかれたように立ち上がって赤く輝く日本刀を構えた錆兎に走りよった。

「まだ刀を喰らいたい奴はいるか?
峰討ちだから死にはしないが…まあ怪我くらいは覚悟しておけ」
と、良い笑顔で言う錆兎に最初の剣圧で吹き飛ばされた者、範囲からかろうじてはずれてた者、みんな真っ青な顔で硬直し、フルフルと首を横に振る。
そこで周りを見回して異論を唱える者がいない事を確認すると、錆兎は
「…解除」
と刀をジュエルに戻し、泣きながら抱きついてくる義勇の背に軽く手を回した。

「さ…さびとぉ…」
しゃくりをあげながらしがみつく義勇の頭を
「もう大丈夫だから…」
ともう片方の手で軽くなでる。

そのうえで視線は集まってきた男性陣の方へ向けた錆兎は一応…とそちらに声をかける。

──念のため言っておくと、これ、男だからな?
との言葉に驚く一同。

一斉に凝視してくる視線に居心地悪そうな義勇を安心させるように錆兎はまたポンポンと軽くその背を叩いた。

「女がパンツを履くなら男だってスカートを履いても良いはずという主義の極東の医療支部長に育てられた弟だ。
ジャスティスとしての役割はヒーラー。
まあ支障はなさそうだから服装については良いだろう。
何か文句があるなら俺か真菰が聞くから本人に色々言わんように」
との錆兎の言葉になんとなく納得の空気が流れる中、
──あれだけ可愛ければ男だって全然OKだけど…
との声が漏れる。

それにまた義勇がぎゅっと自分に強くしがみつくのに気づいて錆兎ははぁぁ~と大きく息を吐き出した。

「一応な、男所帯の鬼殺隊でなくともこのレベルの容姿の女子はなかなか居ない。
…ということで、極東支部のブレイン支部長がずっとストーカーしてて、先日俺がそれを丁重に追い払わせてもらったところだ。
見て楽しむのは構わんが、それ以上は俺が身辺の警護を任されている相手だということを念頭にいれて節度ある距離を保ってくれ。
それとも…俺とガチでやりあっても…と思う猛者はいるか?
もちろんジュエルは使わないで素手で構わんが…」

そう言いつつ常に握れるようにポケットに忍ばせているクルミを取り出して、それをポン!と軽く投げて受け止める勢いでバキっと割る錆兎。

粉々になるクルミに顔から血の気の引く面々。
もちろん即ブンブンと首を思い切り横に振る。

それを確認後、錆兎が
──よし、じゃあ全員解散!食う時間なくなるぞっ!!
と何事もなかったように号令を下すと、皆、蜘蛛の子が散るようにそれぞれ元居た席にもどって行った。









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