青い大地の果てにあるものsbg_第42章_ブレイン本部にて長子と末子の争い

そして二人はそのままブレイン本部へと足を向ける。

「ただいま~」
蜜璃は受付の女性から書類を受け取り、そのままその場で必要事項を記入し終わると、再度義勇の手を取って自分達に向かってカメラを向ける本部長の方へ向かった。

「...何してるの?カナエさん」
きょとんと小首をかしげる蜜璃と、その隣でカナエに書類を差し出す義勇。

カナエはその二人に
「写真を撮ってるのよ。
蔦子ちゃんが義勇君が一人でちゃんとやっていけるかしらって心配していたから、こっちの子と仲良くやっている写真を送って安心してもらおうと思って」
とにっこりと笑みを浮かべながら言う。

「なるほどっ!
お姉ちゃんとしては気になりますよねぇ…」
と自分も弟や妹の居る長女なだけに理解を示す蜜璃。
そして…それに誰も異を唱えることなくほわほわと温かい目を送ってくるブレイン部員たち。

ここは本当に平和な空間だ。
さきほどまで居たフリーダム本部ではスン…とした顔をしていた義勇も心なしか表情が柔らかい。
それにホッとする蜜璃。

だが、それも一瞬で終わってしまった。

──保育園か、ここはァ!!!いい年した弟の心配って過保護かよっ!!
とどうやら不備があったらしい書類をブンブン振り回しながら怒鳴り込んできた不死川によって…。


不死川のその言葉でまた義勇の表情が消えた。
そして言う。

──うるさい
とたった一言。
しかしそれは不死川をさらに激昂させるのには十分な威力を持っていた。


再度ぽか~んとする不死川。
しかし前回と違って今回は移動する場所がない。

青ざめる蜜璃。
ざわめくブレイン職員達。

不死川の顔色はすぐに怒りに赤くなり、
──てめえっ!誰に物言ってやがるっ!!
と声は同時に怒鳴り声になった。

うわああああ~~~!!!と焦る蜜璃。

──お前以外に誰が居る。姉さんをバカにするなっ!

これまでどちらかと言うと大人しい甘えん坊なイメージだった義勇の怒りに驚くが、このままにはしておけない。

蜜璃は意を決して
──私も姉なんですけどっ!長子なんですけどっ!!
と、一触即発の中に割りいって行った。

「気になっちゃうんですよねっ!
弟も妹もすっごく可愛いんですっ!
物心ついた頃からお姉ちゃんやってると、あの子達ももうちっちゃい子じゃないってわかってはいるんですけど、お姉ちゃんだから気になっちゃうんですっ。
あ…不死川さんも弟さんも妹さんもいっぱいいるって聞いてますけど、どうしても小さい頃のイメージが消えないってないですかっ?!!」

もう戦闘よりも決死の思いである。
でも彼女はどこまでも姉なので…姉を想う弟を守らないと言う選択肢はありえない。

いつもは善逸と共に怒られるとすくみあがってしまう相手であるフリーダム本部長に対して相手を否定せず、でも義勇の言い分も否定しないように必死に言葉を続けた。

その甲斐あってか
──あ、あ~…まあ、そういう時もあるけどなァ…
同じく大家族の長子ということで、不死川も弟妹は可愛かったらしく、少しトーンダウンする。

しかし弟の方は空気を読んではくれなかった。

「不死川の弟のことは聞いてるけど、それで天元や俺を恨むのはおかしい。
さっきもいきなりお嬢ちゃんとか馬鹿にしてきたけど、保育園の子どもと言うなら不死川の方が大人げない。
そのうえで姉さんのことまで馬鹿にしたことを言うのは……ムグッ」

おっとりと可愛い末っ子ちゃんだった相手がそこまで言うとは思っていなかったので思わず聞き流してしまったが、さすがに途中でハッとして義勇の口を塞ぐ蜜璃。
だが手遅れだったようだ。

絶対に触れてはいけない不死川の逆鱗をべりべりと引きちぎり、地雷の上で足踏みをする発言に、さすがに部内の人間皆が青ざめる。

(…さ…錆兎さんか真菰さんを呼んで来いっ…)

腐ってもジュエルに選ばれた特殊戦闘員であるジャスティス以外の一般の人間の中では頂点の戦闘力を持つフリーダムのトップである。

ここでキレて暴れられても誰も止められない。

物理で絶対に止めるとなれば蜜璃が本気を出せば止められるとは思うが、その場合は大怪我をさせるか下手すれば殺してしまう。
それはまずい。

しかし…次の瞬間にも殴り掛かってきそうな不死川を止めるのは自分しかいないかもしれない…。

(…大怪我させちゃったらごめんなさいっ!)
と、おそらく加減ができないであろう自分のことを心の中で謝りながら、蜜璃が一歩踏み出しかけた時である。

──うちはねぇ…しのぶの方がしっかりしてるから、逆に心配されちゃうのよ~
と、圧倒的な笑顔で話の流れをぶったぎって思い切り強引に元に戻す美女。

さすが本部長!!
と、ブレイン部員たちが尊敬のまなざしをカナエに送った。
もちろん蜜璃もである。

なんとなくおっとりぽわわ~んとした空気を崩さないカナエの参戦に不死川も一瞬全てを持っていかれて硬直した。

「不死川君も蜜璃ちゃんもしっかりしてるから弟さん妹さんも頼れるのね、きっと。
蔦子ちゃんもしっかりしてるし、しっかり者のお兄ちゃんお姉ちゃんの話が増えるとまたしのぶに姉さんも本当にしっかりしないと~って言われちゃうわね」
と、コロコロと笑う。

…が、その後ろで手で副部長に何か合図をしている。
あ、あれはさっさと古参組を呼び出してって合図なのね…と、それに気づいた蜜璃は苦笑した。










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