青い大地の果てにあるものsbg_第38章_着たい服を着る理由

──うわぁ~!本店だっ!!

蜜璃が店舗の横の駐車場に車を停めるとドアを開けて飛び出す義勇。
その嬉しそうな様子が故郷に残して来た弟妹に重なって、蜜璃は目を細めた。

D-shopは大好きで車で1時間も飛ばせばこの本店に来ることができることは知っていたが、この可愛いを詰め込んだような店舗に一人で来る勇気がなくて髪留めもオンラインショップで買ったのだが、やはり店舗まで来ると気分が違う。
蜜璃だって義勇と一緒になってはしゃぎ倒したい気になってしまう。

それでも一緒に飛び出せないのは無意識に目立つことはするまいと思ってしまうせいだろう。

実家に居る頃は家族仲が良くて親も蜜璃達をのびのびと育ててくれた。
隣近所も蜜璃が生まれた頃から知っている人達で優しい。

そんな中で自分で言うのもなんだが大らかに育った蜜璃の人生が変わったのは自宅から少し離れた大きな街の私立の中学に入学した時だ。

新しい環境、新しい友達にわくわくしていた蜜璃だが、街育ちのオシャレな同級生たちは珍しい色合いの蜜璃の髪を地毛だとは思わなかったらしく…いや、思っていても言ったのだろうが、ありえないセンスと顔をしかめたし、小鳥がついばむような量しか食べないことが女子としては当然で、たくさん食べる蜜璃のことを熊のようだと嗤うのである。

そんな状態で友達などできるわけもなく、蜜璃はせめて少しでも不快な思いを避けようと、彼女たちの目にとまらぬよう静かに目立たぬよう振る舞うようになった。

D-shopの服だって小柄な妹にはずいぶんと似あって可愛らしいと思ったが、大柄な自分がこんな可愛らしい服を着ると悪目立ちするのではないかと落ち着かず、結局妹が着るのを見て満足する日々である。

そう考えると来たのは良いが、似合わない自分と男の子の義勇で着てどうするのだろうと一瞬思ったが、よくよく見ると、身長は同じくらいなのに義勇は自分よりずいぶん華奢で、しかも可愛らしい顔立ちをしているので自分よりは似合いそうだ。

まあ…それでも着るという選択肢はないだろうな…と思っていると、義勇が戻って来て
「早く行こうっ!
試着の時間とかもいれたら時間なんてあっという間に過ぎちゃうよっ!」
と車の横に立ったままの蜜璃の手を引っ張っていく。

「え?え?見るだけじゃなくて試着?
誰が着るの??」
と、その言葉に目を丸くする蜜璃に、義勇は義勇で
「俺と蜜璃。
他に誰が居るの?」
とこちらも驚いたように目を丸くする。

「ええっ??!!
だって義勇君、可愛いけど男の子よね?
D-shopの可愛い服もすっごく似合うと思うけど、でも男の子よね?」
と相変わらず早く早くとまるでおもちゃ屋に来た子どもが母親を急かすように蜜璃の手を取りながら店に向かう義勇に言えば、義勇はきっぱりと宣言した。

──女の子はズボン履くんだから男の子がスカート履いても良いんだって姉さんが言ってた。

(…うわぁあ~~!義勇君のお姉さ~~ん!!!)
と蜜璃は心の中で驚きに絶叫するが、続く義勇の

「俺がズボン履こうとスカート履こうと他人に迷惑をかけるわけじゃない。
それなら俺が着て楽しいと思った服を着て楽しい気持ちで居た方が良いとも言ってたよ。
もし他の人がそれが嫌ならその人はズボンを履いておけばいいんだと思う、
俺は他の人に俺が好きな服を着ろと強要はしないけど、俺もされる筋合いはないから。
…蜜璃は色も顔も可愛いからD-shopの服絶対に似合うし、着たところ見たいし、なんなら色違いコーデとかしてみたいけど…いや?」
と言う言葉でなんだか目から鱗が落ちた思いがする。

そう言われればそうである。
蜜璃がどんな服を着ていても他に迷惑はかけない。
せいぜいあまりに突飛な格好をしていれば目立って一緒に居る人間に気まずい思いをさせるかもしれないが、今一緒にいる義勇は蜜璃と一緒にD-shopの服を着たいと言ってくれているのだ。
着てはいけないと思う理由なんてどこにもないじゃないか。

「そ、そうよねっ。
義勇君のお姉さん…とっても頭がいい人なのね」
思わず空いている方の手を頬に当てて頷けば、
「うん!!蔦子姉さんは優しくて賢いすごい人なんだっ!」
と義勇は嬉しそうに笑った。









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