青い大地の果てにあるものsbg_第30章_プリンスのダンス

──踊って頂けますか、レディ
それまでのフランクな雰囲気から一転、そう言って胸に片手を当てて優雅に礼をする宇髄。

少年期から青年期に入る間のまだ少し線の細い…それゆえにどこかおとぎ話の王子様じみた美貌。
優雅な所作もさらさらの銀色の髪も華やかさ満載で、会場内の女性陣が遠巻きにそちらに注目していた。

その美貌の少年が手を差し出している相手が鬼殺隊内でも随一の美少女な胡蝶しのぶであるとかなら驚きはしない。
だが彼がダンスの相手にと乞うているのが大柄で奇抜な髪色をしばしば揶揄られる自分であることに、誰よりも蜜璃自身が驚いてしまった。


──あ、あのっ…わたしなんかで良いのかしら…
と、その手を取って良いのかどうなのかさまよう蜜璃の手を

──なんかで…じゃなくて、あんたがいいっ!派手でさっ!
と、宇髄はしっかり握ってグイっと引き寄せた。

そのまま蜜璃の身体をフワっと抱き上げてターンをする。
色々な意味で目立つ二人を遠巻きに見ていた会場の面々は、おぉっと小さな歓声をあげた。
蜜璃を揶揄っていた人間達も宇髄に敵意を向けていた輩もみな、一気に華やかな空気をまとうダンスエリアに釘付けになる。

「女の子の方はジャスティスよね?男の子の方は?
すっごくカッコいいわっ!!」

「見ない顔だけど…。
あんな美形、見たら絶対に忘れないっ!
もしかしてフリーダムの新人?」

「綺麗な銀髪。
錆兎君とかもかなりイケメンだけど、彼は近接ジャスティスらしくすごく体格が良いから…。
蜜璃と一緒にいる彼はスタイルは良いけど細身で綺麗で王子様みたいよねっ。
次ダンス申し込もうかしら」


長めの髪をなびかせて踊る見慣れない少年に会場の…主に女性陣の熱い視線が集まる。
その熱い視線を受けている主と踊っている事が蜜璃は少し嬉しかった。

ジャスティスの他の二人の女性陣は真菰もしのぶも小さくて可愛らしくて、男性陣が大騒ぎするのもわかる美少女たちである。
彼女達が愛らしいというのは蜜璃も大いに同意するところでもあるし、そんな彼女達を一番間近に見られる立場の自分は幸せ者だとさえ思う。

でも蜜璃だって女の子なのだ。
3人しかいない女性ジャスティスの中で大柄で丈夫そうだと一人気遣われなかったりする日々に傷つかないわけではない。

そんな日常を過ごしてきたので、こんな風に自分が軽々と抱き上げられてターンなんてされる日が来るとは思わなかった。

おそらく宇髄以外の鬼殺隊の男性陣は他の二人ならそのくらいしたかもしれないが、蜜璃相手にそんなことをするなんて考えてもみなかっただろう。

嬉しくて楽しくて思わず笑みがこぼれると、宇髄は
──やっぱ美人は笑っても美人だなっ
などと自分の方がよほど美しい笑顔でさらに心地よい言葉を贈ってくれた。

しかし残念なことに楽しい時間というものはあっという間に流れるものである。
曲が終盤にさしかかると近くにそわそわした女性陣の列ができ、完全に終わると彼女らがわっとつめかけた。


そうして
「とても素敵なステップでしたわっ。次の曲はぜひ私と踊って頂けませんかしら?」
口々にお誘いが飛び交いはじめ、蜜璃は夢のようなひと時が終わってしまった事に少しため息をつく。

「なに?蜜璃、楽しくなかった?それとも疲れたか?」
にっこり綺麗な笑みを浮かべて見下ろしてくる宇髄に蜜璃は首を横に振ってうつむいた。

「楽しかったわ。とっても楽しかったから、終わっちゃって悲しいの」

「何?蜜璃はもう踊る元気ないのかよ。
音楽を奏でる楽団の面々はまだまだ元気そうだし、俺もまだまだ踊れるんだけど?」
からかうように振ってくる声に顔を上げると、いたづらっぽく笑う宇髄と目があう。

「悪いね、今日は俺は蜜璃の専属だから、またの機会になっ」
宇髄が周りの面々に言うと、一斉に羨望のまなざしが蜜璃にむけられた。

「さあ、次もはりきって行こうぜっ」
宇髄が陽気に言って、優雅な手つきでフワっと蜜璃を抱え、フロア中心にストっと下ろす。
そこで蜜璃の顔にパアっと笑顔が広がった。

「宇髄天元君ね…。なんだか面白そうな子が入ってきたね」
珍しく満面の笑みで楽しそうに舞踏会を満喫しているらしい蜜璃の様子を遠目で見て、真菰も少し嬉しそうにクスっと笑った。








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