青い大地の果てにあるものsbg_第28章_本部一の権力者

「えっと…真菰ちゃんに殴られたら丈夫な炭治郎でも痛そうだし、俺、炭治郎を止めてくる?」

止まらなきゃ殴れば良いという真菰の持論はいつものことで…炭治郎も錆兎もそちら側なのだが、ここで新顔の宇髄までそのノリで行きそうな気配を感じて少し焦ってストップをかけるべく善逸は言う。

まあ元々は錆兎と真菰がジャスティスになりたてでまだ子どもの頃、二人に体術を教えていた当時のフリーダムの本部長の教育方針が根性論で、彼は二人の親代わりでそれこそジャスティスとして本部に来てからは二人してその苗字を名乗っているほど信奉しているくらいの相手なので、当然二人はその方針をも受け継いでいる。

そして…その元本部長の鱗滝左近次が引退後に鬼殺隊に入隊して来たはずの炭治郎まで、今度は鱗滝式ジャスティス育成法をしっかり引き継いだ先輩近接アタッカー二人に育てられて、すっかり脳筋の仲間入りだ。

しのぶは元々、自身がジャスティスになる前から姉がブレイン部員だったのでブレイン寄り。
蜜璃はジャスティスになるのがやや遅かったので炭治郎ほどではないものの、それでも錆兎と真菰…つまり前フリーダム本部長の影響をやや受けて脳筋気味である。

そんな中で自身はいきなりジャスティスではなく、フリーダムとして採用されたはずの善逸は少し変わっている。
フリーダムは確かに実践部隊ではあるので脳筋になりがちではあるのだが、実地の雑務を全て請け負うということもあり、戦闘寄りの人間だけではない。
ブレインと連携しての諜報や備品の調達、医療部との連携で現地での簡単な医療など、様々な仕事を受け持つ人間がいる。

善逸はその中で備品の調達や現地での情報収集を受け持っていたため、最低限の自衛以外の戦闘はほぼない状態だった。

そしてジャスティスになった時にはすでに鬼殺隊の隊員としては長かったため、鱗滝式教育も受けないまま今に至っている。

なので彼らのとりあえず拳!!的な解決法の数少ないブレーキ役にもなっているのである。
…まあ…引きずられることが多くて、あまりブレーキが効いていないという話もあるのだが……

ともあれ、
「あらあら、炭治郎君、また暴走しちゃったのかしら?」
と、そこでようやく登場したのは、彼らの完璧なブレーキ役であるブレイン本部長の胡蝶カナエだ。

鬼殺隊でも評判の美女でおっとりと優し気に見えるが、これがなかなか一筋縄ではいかない人物である。
そうでなければうら若き女性の身で本部のブレインのトップになどなれはしない。

ジャスティスの中ではおそらく一番に怖い物知らずな真菰が現在の鬼殺隊内で最もその判断を重んじている相手が彼女だった。

なので他に対してなら
──ん~ん。あとで殴っとけば収まるから放置して。
と答えるところだが彼女には事情をきちんとせつめいしている。

そして時折、あらあら、と、彼女特有の相槌をいれながら聞き終わったカナエは、全てを聞き終わったあとに
「放っておいても大丈夫そうね。
フリーダムも警戒しているなら、何かあっても不死川君が引き受けてくれるでしょうし」
と、にこにことしながら結論付ける。

砂田の身辺の諸々については、引き受けたからにはフリーダムの責任ということでっ!…と言うカナエの心の声が聞こえた気がして、善逸は苦笑した。

驚いたことに宇髄は特に紹介を受けることもなく、全てを察したらしい。

──あ~…本部一の権力者様登場か
と笑いながら言う。

それに少し驚いたように目を丸くしはしたものの、カナエはそれを否定することもなく
「ジャスティスの人事も司っているから、確かに最高の権力者という考え方もできるかもしれないわね。
鬼殺隊本部、ブレイン本部長の胡蝶カナエよ。
よろしくね」
と、笑顔で手を差し出した。









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