──さて、と、あっちは良さそうだね。じゃあ天元君の方ねっ
勢いよく走りまわって部下に指示を与えていく不死川の様子を少し確認してそう言うと、真菰は今度はそのまま床で胡坐をかいている宇髄を見下ろしてニコッと笑う。
私は真菰。本部最古参の近接アタッカーの片割れ。
よろしくねっ、天元君」
そう言うと有無を言わさず宇髄の手を取り引っぱって立たせる。
宇髄の方もそれに抵抗することなく素直に立つと、パンパンと尻の埃を払った。
そしてほんの一瞬の間のあと、ボソッと本当に小さな小さな囁くような声で零す。
──…錆兎って……
注意して聞いていないと聞き逃してしまいそうなその声だが、真菰は当然それを聞き漏らすことはない。
こてんと小首をかしげると、
──ね、もしかして知り合い?なんか錆兎の方は君のこと知ってそうな感じだったけど…
と聞いた。
それに宇髄は少し俯いていた顔を上げて、なんだか嬉しさを無理やり押し隠したような表情で
──あ~、ちょっとな。
と答える。
そこで蜜璃も、さきほど宇髄が探していたのは錆兎だったのかも…と思うが、そこはなんだか宇髄が嬉しさを隠してなんでもないことのように平静を装っているように思えて、空気を読んで黙っておいた。
──で?その錆兎はどこに?
とキョロキョロと辺りを見回す宇髄に真菰はちょっと肩をすくめた。
──えっとね、たぶん君の相方を保護してるんだと思う。さっき同じ方向に居たから。
と、その真菰の言葉に宇髄はそうと意識してみている人間にはかろうじてわかるくらいにわずかに肩を落としたが、真菰が続けて
「錆兎とは明日の朝食時には嫌でも顔を合わせるから今は他のジャスティスの子達を紹介させてもらっていい?」
と言うと、
「了解っ」
とすぐ割り切ったようなポーカーフェイスに戻って卒のない笑みを浮かべた。
──…というわけで……
と、そこで真菰はすぅ~っと息を吸い込み……叫ぶ。
──たんじろぉぉ~!!!!
小さな体からは考えられないような声量だが、アタッカーで腹筋も鍛えているだけにその気になれば本部内でも錆兎に次いで大声を出せる真菰。
皆ももう慣れたもので、あまり驚いた様子もない。
驚いているのは宇髄を始めとする極東支部から来た人間だけだ。
──マジかよ…肉声で呼び出しかぁ?
と目を丸くする宇髄。
そしていつもそれで呼ばれる後輩ジャスティスは全速力で駆け寄ってきた。
──真菰、何かあった?
──うん、極東から来た天元君に紹介しようと思って。
と、当たり前にそんなやりとりがあったあと、真菰は炭治郎を宇髄の方に少し押しやって
──ジャスティス唯一の専業盾の炭治郎ね。頭突きで瓦割れるよっ。
と、どう反応して良いかわからない不思議な紹介をする。
その後、
──蜜璃ちゃんはさっきから話してるから大丈夫だよね。あとは…善逸は……
と続ける真菰に、宇髄が
──あ~そいつはフリーダム時代にうち(極東)にも来てるから知ってる。
と言う。
──あ~、そうなんだ。じゃ、あとしのぶちゃんは今ブレインの手伝いしてるから明日の朝ね。
──らじゃ~、了解っ。
淡々と紹介を終える真菰と適度に流す宇髄。
いきなり不死川との一触即発なところから真菰が入ったことで急展開で流れるように進む受け入れに、蜜璃は近接アタッカーの先輩というだけではなく、そのコミュニケーション能力の高さに心から感服した。
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