当事者の不死川と宇髄、そしてすぐそばに居て関わらざるを得ない雰囲気の蜜璃。
それだけではなく、フリーダムのボスとジャスティスの争いと、関われば心身ともにダメージを負いそうなその構図を遠巻きに見ていた他の面々も皆、思いがけない人物が参加してきたことに目を丸くした。
善逸は蜜璃以上によく不死川に怒鳴られていたので、彼をかなり怖がっていたはずだ。
それがいきなり恐れていた相手に向かって異を唱えたのだから皆が驚くのも不思議ではない。
今までの怯えた様子が演技であるとか、いきなり気が強くなったとか、そういうわけではなさそうだ。
その証拠に善逸はひどく震えている。
それでも震えの止まらぬ手をぎゅっと握り締めて、
「ジャスティスはっ…数少なくて辞めることとか逃げることとか拒否することとか出来ないからっ…」
と、絞り出す声に不死川は宇髄から彼に標的を移し、
「ぁああ~??
お偉いジャスティス様のご要望なら替えの聞く一般人なフリーダムを殺すくれえ目ぇつむれってかぁ??」
と下から上へとねめつけるように善逸に視線を向けた。
これだけで普段の善逸なら泣きながら逃げているところだが、…実際もう泣いているのだが、それでも今日の彼は逃げなかった。
ぷるぷると震え方は大きくなって、涙もぽろぽろと零しながら、それでも言う。
「ち、違うでしょぉ!
俺達、逃げられないからっ、フリーダムの協力なくなったら一番ヤバいの俺達じゃんっ!
一番フリーダムの皆の協力を必要としてんのもそれに助けられてんのも、それをありがたいと思ってんのも俺達だよっ!!
俺、もうフリーダムの皆のこと大好きだよっ!!
それを犠牲にしなきゃってめっちゃ辛いよっ!!
でもやんなきゃ目の前のフリーダムだけじゃなくて、支部にいる職員全員だけじゃないっ、一般の皆さんとか、すっごいいっぱい、それこそ全員死んじゃうってなったら、やらなきゃしょうがないじゃんっ!
でも平気じゃないよっ!ぜんっぜん平気じゃないっ!!
俺だったら病むよっ!
たぶん戦闘のたび行きたくないって大騒ぎして泣きわめいて…それでも引きずられて行って…自分を助けてくれる相手を仕方ないとは言っても自分の攻撃で死なせちゃったりしたら戻って吐いて転げまわって泣き叫ぶっ!
それでも次に戦闘が起きたら、全員を死なせるわけにはいかなくて、ゲロ吐きながらでも現場に行って、泣きながらその日の担当のフリーダムを犠牲にすると思う…。
でも平気じゃないからねっ?!
他に方法あるなら大変でも他の方法取るよっ!
ぜんっぜん平気じゃないっ!!
平気じゃないんだからそれ以上責めんのやめてよぉっ!!」
涙と鼻水を盛大に流しながら、最後は泣きながら盛大にむせる善逸に、不死川も少し困ったような顔で黙り込む。
宇髄の方はぽかんと少し固まったあと、
「お前…ジャスティス向いてねえんじゃね?」
と笑った。
それに不死川はまた怒鳴ろうと口を開きかけたが、当の善逸はうんうんと頷きながら、
「…うんっ…俺…向いてないよっ?
戦場怖いし…戦うの嫌いだし……
…貧乏だったからっ…お給料良かったし…フリーダムで採用されて下っ端やってたら…なんでかジュエルに選ばれちゃっただけだからっ……」
と身も蓋もない告白をする。
「ジュエルに選ばれるなんて幸運にありついたくせに、嫌なことみてえに言うんじゃねえっ!!」
と、そこで不死川が有無を言わさずその後頭部をスコ~ン!と殴りかけるのを、宇髄が制した。
「あぁ??てめえがなりたくてなれなかったのがてめえのせいじゃねえのと一緒で、こいつがなりたくないのになっちまったのはこいつのせいじゃねえだろうがっ!
ジュエルなんて勝手に選んでくんだからよっ!」
と、それは宇髄君が正しいわよね…と秘かに心の中で同意する蜜璃。
しかしその一言でまた二人の間に火花が散って、今度こそ二人が戦闘態勢にはいってしまう。
ああ、どうしよう…と思う蜜璃の前で二つの拳が互いに向けられかけた。
…が、次の瞬間。
ガシッ!!と小さな手がそれを掴んで、驚いたことに二人を同時に投げ飛ばす。
「は~い!ジャスティス以前に社会人として向いてないよ?君たちっ!
みんな楽しく歓談してるところで殴り合い始めたら二人ともただの迷惑野郎だからねっ!」
ドッス~ン!!と床に転がった男二人の間で彼らから離した両手を腰に当てて言い放つ真菰。
圧倒的に頼もしいその姿に、蜜璃は今度こそ争いの収束を見て、心から安堵した。
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