青い大地の果てにあるものsbg_第18章_錆兎と居たい

錆兎が帰ってしまわないうちにっ!

いったんは着替えを置いてある寝室に戻った義勇は大急ぎで礼服を脱いで部屋義に着替えた。

姉のチョイスなので…というか、一部姉のおさがりなのであまり男らしいとは言えないそれらの服は早く着替えられるので便利だが砂田などの前では絶対に着るなと天元に厳命されていた。
が、居間にいるのは錆兎なので問題ない。

あとはまだ荷ほどきが終わらない荷物の中から姉とおそろいの小鳥のエプロンを引っ張り出して身に着ける。

そうしてお茶をいれて雑談タイム。
とにかくここでなんとか錆兎にずっと一緒に居てもらえるように交渉したい。

天元は淡々とこなしていたが、正直義勇は戦闘が嫌いだ。
怖い。

なにしろ眼前の敵だけじゃない。
本来なら協力したり守ってくれたりする味方からもどこか敵対心のようなものを感じる。
信頼できるのは天元だけ。
そう、文字通り信じられるのも頼れるのも互いだけというなかで、支部の中でも一番の広範囲らしい担当地域の敵に対処してきたのだ。

そんな状況だからいくら信頼をしているとはいっても天元だって余裕がそれほどないのはわかる。
状況によっては頼るどころかむしろ頼らせなければならないかもしれない。
そう思うと余計に辛い。

それは戦闘だけじゃなくて私生活でも同じことだった。
イヴィルが居ないだけで敵対心を向けてくる人間は常にいる。

父が亡くなる前はフリーダムが天元の攻撃の犠牲になって敵対心を向けられてくることなどなかったから、全てにおいて平和だった。

そう、父が亡くなる前の2年間は義勇も一緒に任務に出ていたが、今のように不安に思うことなど何もなかったのだ。

結局、怖いのは任務でもフリーダムでもない。
不安を遠ざけてくれる誰かが一緒に居るかどうかの問題である。

そう言う意味では錆兎は父と同じ近接アタッカーで戦闘時には前に立ってくれるだろうし、プライベートの人間関係はわからないが少なくとも義勇が困っていたらきっちりと守ってくれるだけの力はある。

錆兎が居れば義勇の側はとても安心だ。

もちろん義勇が一方的に頼るばかりではいけないのはわかる。
義勇が錆兎に一緒に居てもらいたいと思うように、錆兎にだって義勇と一緒に居たいと思ってもらわなければならない。

そのために自分は何ができるだろうか…。

他人よりも義勇が出来るであろうこと…。
そうだ!家事はどうだろうか。

義勇は母は早くに亡くなって父は広範囲を受け持つ多忙なジャスティスだったこともあって、家の諸々は始めは姉がやってくれていたが、その姉も医療部に勤めるようになって忙しそうだったので、少しずつ手伝って、最終的には義勇が受け持つようにシフトしていた。

他よりも優れているかはわからないが、錆兎も多忙なら家庭内のことを全てやってもらえたら楽だろうし好ましいと思ってもらえるんじゃないだろうか…。

そんなことを考えていると錆兎が義勇が小皿に出した手作りのクッキーを一つ口に放り込み

──あ、これ美味いな。俺は甘い物はあまり得意じゃないし、甘すぎないでいい。
と言うので、手作りであることと、菓子作りを含めて料理は得意だし、なんなら他の家事も得意なのだと主張する。


それでもそこから錆兎とずっと一緒に過ごしたいのだというところまでなかなか話を持っていけない。

どうしよう…と思いつつ、そう言えば昨日の夜に支部を出発して今日こちらについたあとバタバタしていたので疲労がたまっていて、なんだか目を開けるのが辛くなってきた。

それでも交渉するまでは…と何度か寝落ちそうになりながらも頑張っていると、とうとう

──眠かったらもう寝ろよ。俺は帰るから
と言われてしまう。


ダメだ!最初が肝心なのに!!
と、義勇は一人では怖いのだと主張するが、
──いや、だからって寝ないわけにはいかないだろう?いつ任務が入るかわからないし…
と言う答えが返ってきた。

もうこれ以上はダメだ。
どうしたらわかってもらえるかと考える余裕がない。

なので
──だから…今日ここにいてもらっちゃ…だめ?
とストレートに伝えると、錆兎は困ったように自分は知り合ったばかりの人間なんだからもっと危機感を持った方が良いとか言ってきたが、義勇が飽くまで錆兎と居ると安心できるのだと伝えると、最終的に
「わかった。俺に対してはもう仕方がない。
信頼を裏切るようなことはしないつもりだし、警戒はしないでいい。
でも、鬼殺隊は男所帯だし砂田のような輩がまた現れないとも限らない。
だから自分で警戒するか、自分で無理なら俺の近くに居れば代わりに警戒してやる」
とまで言ってくれた。

やった!!
もう安心だ!!

安堵しつつ義勇は次を考える。
一緒に居るとなるとすでに長く暮らしている錆兎が移動するより、まだ荷ほどきも終わっていない義勇が移動する方がいいだろう。

そういう結論に至って、とりあえず当座必要なものだけ…と着替えや洗顔用具などをカバンに詰め込んで錆兎が待つ居間に戻ると、錆兎に不思議な顔をされた。

そう、その時は義勇にとってはそれは当たり前の行動だったのだが、錆兎の言う自分と居れば…というのは、別に一日24時間一緒というわけではなく、他の人間が居る場所でというつもりだったということは、のちに錆兎に打ち明けられる。

しかしそれで動揺する義勇に、──天然だなとは思ったし驚きはしたが、別に嫌だったわけじゃないぞ…と補足してくれる錆兎に、やっぱり彼は優しいと義勇は錆兎をますます好きになったのだった。









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