青い大地の果てにあるものsbg_第17章_ヒーローは必ず現れる

本当に幸せな気持ちで握った自室のドアノブ。

そこでそれを回した時に当たり前にドアが開くのを普通なら警戒する。
…少なくとも義勇の極東ジャスティスの相方である天元なら即ジュエルを武器に変えるレベルで警戒するだろう。

だが逆に普通よりもかなり用心深い天元と常に一緒にいたせいか…はたまたしっかり者の父と姉に囲まれて育った末っ子なせいか、義勇はそれになんの疑問も不自然さも感じずドアを開けて部屋に足を踏み入れ………驚きと恐怖に震えあがることになる。

そして即携帯でプッシュするアドレスはついさっき教えてもらったばかりの番号。
知合ったばかりなのにとか、まだそこまで親しいとは言えないのだから対応してもらえないかもとか、そんなことは微塵も思ってもみない。

ただ、泣きながら、『助けてっ!』と呼べばヒーローは来てくれるはず。
だって世の中はそうなっているっ。
ヒーローは絶対に助けに来るし、悪は必ずやっつけられて終わるのだ。

そして…実際そうだった。
見事なまでにそうだった。

義勇が泣きながら電話をかけて1分もしないうちに
──義勇っ、どうしたっ?!
と、勇者様が義勇を助けに飛び込んできてくれた。

ああ、カッコいい…
それを見て義勇は彼と出会ってからもう何度も頭の中で繰り返したその言葉をまた脳内で繰り返す。

とんでもなく凛々しくもカッコいい、いわゆるイケボで紡がれる
──発動っ!!
の言葉と共に彼のジュエルがシュパッ!と光って紅い剣となってその手に収まった。

…ああ、カッコいい。
やることなすこと全てカッコいい…。

こんなカッコいい錆兎の姿を見られるなんて、砂田は嫌いだが少しだけ褒めてやっても良いと思うくらいには眼福だ。

そうして砂田に剣を押し付けながら、命が惜しければ二度と義勇に近づかないようにと砂田を追い払ってくれる錆兎。

ああ、また姉さんに報告することが出来てしまった。
姉さんはなんだか友人周りとカッコいい男性の漫画を描く趣味があるようなので、錆兎のこと、そして彼の行動やそのカッコよさを語ってあげればきっとその役に立つだろうし、大いに喜んでくれるだろう。

さきほどまでは本当に怖くて震えることしか出来なかった義勇だが、錆兎がきてくれたのですっかり恐怖も去り、ウキウキとそんなことを考えていた。


錆兎は追い払ったあとも、義勇を宥めるように、──もう大丈夫だからな。と背中をぽんぽんと軽く叩きながら言ってくれる。

傍に居ると安心するし本当に心がぽかぽかと温かくなった。
一応義勇が少し落ち着くまでは一緒にいてくれるつもりのようだが、じきに帰ってしまう。
それが悲しくて、思わず錆兎のシャツの胸元をぎゅっと掴むと、義勇の行って欲しくないという気持ちを察したのか、錆兎が少し困った顔をした。

そりゃあそうだろう。
彼だってずっと義勇の面倒を見ているわけにも行かないだろう。
でも行っちゃやだ…と言う気持ちを上手に抑えるには義勇はあまりに生まれも育ちも弟だった。

そうして無言の攻防があったのだと思うが、義勇は無事勝利できたようだ。

小さくため息をついた錆兎の口から出た言葉は
──着替えた方が良くないか?礼服が皴になるし汚れるし。落ち着くまではここにいるから
と言う言葉。

それはとどのつまり、”落ち着かなければ帰らない”ということで!と、取ることにする義勇。

──じゃあ…寝室で着替えてくる。待っててね
と、暗にその間に帰ってしまわないでねと釘を刺しつつ着替えに行った。








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