痛い、痛い、痛い、痛いっ!!!
落ちる瞬間、脳内で繰り返す言葉。
ひっかかった金具は外れたものの、とんでもなくバランスを崩した状態で落下している。
落ちたら痛くないわけがない。
…というか、大怪我か…下手すれば死ぬ!!
恐怖を通り越してパニックになる義勇。
だが、数秒後、義勇は地面にたたきつけられることなく、何故かしっかりとした腕に抱えられていた。
ぎゅっと閉じた目を恐る恐る開けてみると、飛び込んでくるのは宍色の髪。
おりしも季節でそのあたりを舞っている夜桜のように綺麗だな…などと、現実逃避をしつつ、さらに上に顔を向けた義勇は、思わず息を飲んでしまった。
…かっ…かっこいい!!!
そこに見えるのはもう世界の至宝レベルと言って良いほどのカッコよい顔。
義勇の父もいわゆるイケメンだったし天元も美形だとは思うが、もうそんなレベルではない。
現実に存在しているのが嘘じゃないかと思うくらいの顔の良さだ。
気づかわし気に義勇を見下ろす少し吊り目がちな目は綺麗な藤色。
──大丈夫か?
と聞いてくる声さえカッコいい。
これはあれだ…。
蔦子姉さんから借りて読んだ少女漫画の中に出てくるようなイケメン男主人公そのものだっ!
そもそもがピンチに颯爽と登場してこんな風に落ちてくる義勇を軽々と受け止めて助けてくれること自体がありえない。
どこから来たんだ?
少女漫画の中から?
と、ついついそんな風に考えていることが口について出てしまって
──…どこから来たんですか?
なんて間抜けな質問をしてしまった。
まあ彼の方はそれを文字通り取ったらしく、バルコニーで手すりを乗り越えようとしている義勇を見かけて心配になって見ていたら、案の定足を滑らせたので助けてくれたらしい。
別に知り合いでもなんでもないのに心配をしてくれたんだ…優しい!
と、なんだかぽわぽわした気分で彼を見上げると、彼は本当に良い人なんだろう。
夜に一人でいるのは危ないからどこかに行くなら送っていくと申し出てくれた。
どこかに…と言うのは正しいが、その“どこに”と言うのは決まっていない。
強いて言うなら砂田に見つからない場所に?
聞かれて義勇は考えてみるが、まだ来たばかりで右も左もわからない本部基地の中で義勇が居ても許されるとわかる場所は歓送迎会の会場か、あるいは自室くらいで、そのどちらも砂田に見つかる可能性が高い。
それが嫌ならもう明日に彼が極東支部に帰るまでここで時間を潰すしかないんじゃないだろうか…
とりあえず会場から逃げてきたが行く場所が決まっているわけではなく、このあたりで時間を潰しているつもりだと伝えると、
──じゃあ、ちょっとここで待っていろ
と言いおいて、助けてくれたイケメンは会場に戻ってしまった。
…行っちゃった…と思わずつぶやいて肩を落とす義勇。
せめて自室にと言えばそこに着くまでは一緒に居られたのに…。
それからまたこちらに戻れば良かった…と、今更ながら気づいて思い切り後悔した。
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