青い大地の果てにあるものsbg_第13章_身体能力ゼロ

……高い……

会場に入ってすぐバルコニーにダッシュする義勇。
そして砂田の挨拶が終わらないうちに逃げ出そうと思ったのだが、会場は2階。
バルコニーから庭に出ようにも地面は遥か下にある。

それでも逃げないという選択肢はない。
なので義勇はおそるおそるバルコニーの手すりに手をかけた。

正直…特殊戦闘員であるジャスティスというわりに義勇は運動は得意ではない。
知らない人間はジャスティスというのは身体能力が高くて…と思いがちだが、それは間違いだ。
確かに近接アタッカー系のジャスティスの運動能力は人間をはるかに超えている。
義勇の父もそうだったが、2階から飛び降りるどころか、人を一人二人抱えた状態で2階に飛びあがることすら出来た。

それが天元のような遠隔系アタッカーのジャスティスになると人並外れた能力なのは視力聴覚嗅覚などで、ようは遠距離の敵を倒すのに必要な状況把握に必要なものということである。

あとは極東支部にはいなかったので義勇は直接は見たことのない盾役になる防御系ジャスティスはすごく丈夫で、本部にいる防御系ジャスティスは頭突きで分厚い板を割れるとか割れないとか…。
とにかく傷を負いにくく、負っても回復が早いらしい。

そんな中で一番何も利点のようなものがないのが回復系ジャスティスだ。

強いて言うなら…環境に敏感で、体調を崩しやすくなるような環境だとすぐわかる……自分が真っ先に体調を崩すので。

いやいや、それ能力って言って良いのか?と声を大にして訴えたい。
義勇の母も同様だったので、姉の蔦子が医療系の職を目指したのも母を見て育ったからだと聞いた。

一番死にやすい体質のくせに、自分がヒーラーなので他の誰も自分を治すことは出来ない。
最悪だ。


これ…落ちたら普通よりもひどい怪我をするんじゃないだろうか…と、そんな不安と砂田に迫られる恐怖を天秤にかけてみる義勇。

自分が怪我をすれば自分が治せばいいじゃないかと他人は思うかもしれないが、怪我で非常に痛みを伴うなかでジュエルをアームスに変形させて集中して治療を行うなんてできるわけがない。
かすり傷ならできるかもしれないが、そもそもがかすり傷くらいで能力を使う意味がない。

はあぁ…と義勇はため息を一つ。

そして
…慎重に行こう…
と、手すりを掴んだ手に力を込めて、てすりを跨ごうと足をあげてみる。

……が、足がそこまであがらない。
そして今までの自分を後悔。


天元はジャスティスの能力による底上げは全くないが、自分で体を鍛えていて、体術も大人顔負けなくらいは出来ていた。
極東支部に来てからはわざわざ攻撃特化でとてつもなく身体能力の高かった義勇の父親に頼んで鍛えてもらっていたくらいだ。

だから元が良かったのか教え方が良かったのか、天元は体術もまるで忍者のように身軽にこなす。

それこそ今のように二階くらいの高さなら、てすりをひょいっと乗り越えて猫のように回転して着地くらいはするかもしれない。


ああ…同じくらいというのは無理でも、天元が教わっている時に少しくらい一緒に鍛えておくんだった。

と、今更ながら思いながら、義勇は地面に片足をつけた状態で横向きに片足ずつ乗り越えるのは諦めて、鉄棒のように両手で平行にてすりに掴んで、とびあがる。

そうしてそこで乗り越えやすくなった片足を手すりの向こうに。
そのまま順調に残った足も乗り越えて、そこで安心したのがまずかった。

儀礼服の袖口のカフスが手すりを乗り越えて下ろしかけた片足の膝の生地にひっかかって、悲鳴を上げる間もなくバランスを崩した義勇は、足場を踏み外して下へと落下していった。









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