それは突然の指令だった。
両親共に極東支部のジャスティスで極東支部内で生まれ育ったため、義勇は物心ついてからずっと極東支部で暮らしていた。
と言っても、両親が希少なジャスティスで忙しかったこともあり、幼い頃からほぼブレインの女性陣が育ててくれていたようなものなので、親が亡くなっても生活が変わるわけではない。
義勇自身も母が亡くなって7年後の7歳の時に母のものだったジュエルに選ばれてジャスティスになったため、父が亡くなるまでは一緒に戦闘に出て色々教わったものである。
そして義勇がジャスティスになったのと同時期にもう一人、宇髄天元と言う少年がジュエルに選ばれてジャスティスとして極東支部に来た。
来た当時は随分と斜に構えた皮肉屋の子どもだったが、大らかな義勇の父の柊が義勇と一緒に自分の子のように面倒を見たのもあって、数か月後にはまるで一緒に育った兄弟のような間柄になっていた。
しかし2年後、父が亡くなると、義勇と天元は保護してくれる大人が居ないと言うことだけではなく、近接アタッカーで前に立ってくれた父がいないなかで後衛二人で任務をこなしていかねばならないという壁にぶちあたることになる。
イヴィルを倒すために天元の魔法攻撃の犠牲にならざるを得ないフリーダムとの関係は最悪に。
そしてその頃からそれが原因で天元がまた荒れだした。
姉の蔦子がすでに医療部の役付きになっていたし、義勇自身はヒーラーなので敵も味方も傷つけることがなかったのもあって特に何かされることはなかったが、天元はたまにかすり傷を負ってくるようになる。
どうして?とは怖くて聞けなかったが、時折フリーダムの方から洩れる、ジャスティスでさえなければただじゃおかないのに…というような言葉でなんとなく察して義勇は怯えて暮らすようになった。
フリーダムの部員が死んでしまうのは天元のせいじゃない。
天元だって好きで攻撃に巻き込んでいるわけじゃない。
そうかばうべきなのはわかっているのだが、怖くて言葉が出ない。
だから自然とフリーダムを避けてブレインの方へ入り浸るようになったのだが、そこも安息の地とは言い難かった。
確かに義勇を幼い頃から育ててくれてきたお姉さん達が優しく迎えてくれたのだが、いつの頃からだろうか…そこのトップである支部長の砂田がなんだか義勇に嫌な感じで構うようになる。
これ…女性だったらセクハラだよね…と思いつつも、男の自分が言ったら自意識過剰とか変態とか言われるんじゃないだろうかと思うと文句も言えず、今度はブレインからも距離を置かざる得なくなった。
救いは姉と天元が居るので本当に一人ぼっちではないことである。
荒れても天元は義勇にはやっぱり兄弟のように接してきたし、年の離れた姉も相変わらず優しくて天元と義勇の両方を心配して気にかけてくれた。
それでも父が居た頃のあの安心感は戻ってこない。
あの頃のように自分が安心しきって暮らせることはおそらくないのだろう…と、戦闘に忙殺されながら義勇はどこか心が削られ続けるような日々を送っていた。
しかしそんなぎりぎり耐えていた綱渡りのように不安定なかろうじて平和だと言えなくはない日は突然に終わりを迎えることになる。
とある日…いきなりジャスティスが全員本部に集められることになったとの知らせを受けた。
もちろん義勇と天元もだ。
その指令を聞いた時、さすがに逃げてしまおうと思った。
だって母さんが亡くなり、父さんが亡くなり…唯一の身内である蔦子姉さんとまで引き離されるなんて耐えられない。
ジャスティスは希少で代わりの効かない存在なので、本部に必要なのだと言われれば拒否権はない。
では姉さんの方がついてきてくれれば…とも思ったのだが、姉はつい最近極東支部の医療部長に就任したばかりで、こちらもそんな重要な役を蹴って弟についていくなどできはしなかった。
なので行かない!と泣いてごねて…しかし最終的に姉にマメに手紙を書くし、休暇を取って会いに行くから…と説得されて、不承不承、本部行きを了承する。
極東支部のかなりの面々と折り合いが悪かったせいなのだろうか…天元の方は本部行きの指令が出てどこか嬉しそうだ。
鼻歌交じりに荷物をまとめる天元に恨めし気な視線を向けると、天元は
「そんな顔すんなって!
本部に行きゃあ、まあ…ここよりはずいぶんとマシな状況になるからっ。
義勇だって砂ちゃんとかと永遠におさらばは嬉しいだろ?」
と久々の笑顔。
ああ、天元がこんな風に笑うのは父さんが亡くなって以来かも…そこまでその後のこの支部での生活が辛かったのかと思うと、義勇も天元が辛い場所を離れられるなら…と、気を取り直す。
そうだ、ジャスティスはそんなに長期の休みは取れないが、姉さんの方は取れるだろうし、そうしたら本部を色々案内してあげよう!
義勇はそんな風に思いつつ、自分も荷物をまとめ始めた。
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