とりあえず極東支部の片割れとは接触できたしそれなりの関係も築けそうだ。
宇髄の方は明日にでも接触するか…と、錆兎はそんなことを思いながら、自室に戻ろうと歩き出したが、次の瞬間、いきなり携帯が振動する。
出た瞬間に聞こえる義勇の嗚咽に錆兎は再び踵を返した。
「義勇っ、どうしたっ?!」
バン!と鍵のかかってない義勇の部屋のドアを開けると、真っ青な義勇がギュウっと抱きついてくる。
「さびとっ!!」
しがみついたまま震えている義勇の後ろには、パーティの来賓の挨拶でみかけた極東支部ブレイン部長砂田の姿が。
錆兎は即タイをむしりとってペンダントに手をかけた。
「…発動っ!」
ヒュンっ!と音を立ててその手に赤く輝く日本刀が握られる。
錆兎はまっすぐそれを砂田の喉元につきつけた。
「ここで…何をしている?」
殺気を含んだ低い声で言う錆兎に、砂田は青くなってすくみあがる。
「い…いや…これでお別れだから…義勇きゅんとお話を…と…」
「他人の部屋に勝手にあがりこむのは犯罪ってのは…わかるな?」
錆兎の言葉に砂田はコクコクと無言でうなづいた。
「嫌がってる相手にしつこく迫るのも犯罪ってのもわかるよな?」
砂田の額から冷や汗が流れ落ちる。
「今後…義勇に近づいたら俺がこの刀でその首を切り落とそうと本気で思ってるのも…わかるよな?」
言って錆兎は刀の刃先を砂田の喉に当てた。
肌が少し切れてす~っと赤い筋ができる。
ヒィっと引きつった悲鳴をあげる砂田。
「わかったら行けっ。二度と義勇に近づくなよ」
少し刀を喉元から離すと、砂田はあわてて部屋から転がり出て行った。
それを見送って
「解除っ。」
と錆兎はアームスを解除した。
そして腕の中でひどく震えながら泣いている義勇に声をかける。
「もう…大丈夫だから…な」
そっと頭をなでると義勇はさらに激しく泣きじゃくった。
錆兎はしかたなしに頭に置いた手を義勇の小さな背中にやって、トントンとなだめるように軽くたたく。
部屋で待ち伏せの話は聞いていたのだからせめて室内を確認してから戻れば良かった。
ひどく怯えている義勇の様子に、うかつだったなと少し後悔する。
「さびと…助けに来てくれて…ありがと…」
しばらくして少し落ち着いたのか、義勇はそれでも錆兎にしっかりしがみついたまま、涙で潤んだ瞳で錆兎を見上げた。
長い睫は涙で濡れ、真っ白な頬が泣いていたせいか少し上気して淡いピンク色に染まっている。
(う~ん…確かに可愛いよな…)
年齢は確か錆兎と一つしか違わない16のはずなのだが、攻撃特化の近接系と回復系の違いか、体格も雰囲気も随分違って、まだ幼さ満載で庇護欲を刺激する可愛らしさだ。
なまじ本部のジャスティス女性陣はしっかり者揃いなので、下手をすれば義勇の方が少女に見える。
しかしミイラ取りがミイラになってはダメだ…と、錆兎は敢えて意識しないように視線をそらして、
「ああ…約束しただろ。もう…落ち着いたか?」
と、声をかけた。
「うん…。でもまだちょっと…怖い…かな?」
少しうつむいて言う義勇の声はまだ震えている。
そんな様子も可愛くて、ひきずられないように距離を取りたいと思うのだが、義勇の"行かないでオーラ"の前にそれもできない。
怖いのはわかるが、そういう目で見られるくらいには可愛らしい容姿をしているのだから、夜中に誰もいない自室で自分から抱きついちゃやばいだろう…と心の中でつっこみをいれるが、口に出す勇気は当然ない。
いや…むしろ男と認識されてないのか…と、チラッとしがみついている義勇に目を落とすと、視線に気づいて義勇が子猫のような丸く大きな青い目で錆兎をみつめてくる。
(うん、まずいな。…このままじゃまじめにまずい)
本人には全く自覚はないのだろうが、まるで愛らしい少女のような容姿をして可愛い涙目で上目遣いにみつめて抱きついてくるのだ。
健全な17歳の男子としては多少なりとも意識はする。
まあ表面には出さないだけの理性はあるのだが。
なんとか距離を取らなくては…平静を装いながらも錆兎はグルグル考えをめぐらせる。
「着替え…」
錆兎はポツリと言った。
「着替えた方が良くないか?礼服が皴になるし汚れるし。落ち着くまではここにいるから」
「あ…」
義勇はようやくパッと体を離した。ホッとする錆兎。
「じゃあ…寝室で着替えてくる。待っててね」
パタパタと義勇が寝室に消え、パタンとそのドアが閉まった瞬間、錆兎は安堵のため息をついてソファに腰をかけた。
自分の理性を大絶賛したい気持ちに駆られる。
レッドムーンのイヴィルと戦っている方がまだ楽な気がするのは気のせいだろうか…。
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