青い大地の果てにあるものsbg_第8章_癒し系ジャスティス

こうしておそらくカナエが望んでいた形とは全く違うのは重々承知はしているが、一応形式上は依頼された通り極東支部のジャスティスのフォローに入っている錆兎。

そして…これも予想していたのとはだいぶ違って、なんだか楽しい。

本部のジャスティスの面々は割と色々な方面に自己主張の激しい人間が多いので、どこか気が弱そうでおっとりとした義勇は今まで周りにいなかったタイプだ。

確かジャスティス唯一の攻撃手段を持たないアームスの持ち主だったよな…
錆兎はあらかじめカナエから得ていた情報を思い起こす。
確かに目の前にいる優し気な少年と攻撃という言葉はあまりに不似合いで結びつかない。

最初の動揺まじりの現状説明を終えて落ち着いてくると、ほわんほわんとなんだかお育ちが良いと言うか、例えるなら家飼いの子猫のような愛くるしい空気をまとい始める。
ふんわりと優しげで癒し系のアームスが持ち主に選ぶのもわかるような気がした。

確かにこれは手の内に取り込んで構い倒したくなるような可愛らしさだな…と、錆兎は義勇を追い回しているらしい極東支部のブレイン部長の気持ちが少しだけ理解できる気がしてくる。

もちろん、だからと言ってセクハラもストーカーも許されることではないし、する気はないのだが…。


しばらくして風が若干強くなってきて、サア~ッと激しく桜吹雪が舞い始めると、義勇はスッと立ち上がって風に向かって手を伸ばした。
長い黒髪が桜と一緒に風に舞う。
夜桜と桜の精を思わせる。
幻想的なまでに美しい風景だ。

しかし…次第に冷えてくる空気に義勇が小さくくしゃみをした。
それを合図に錆兎は少し笑みを落とし、そのままふわっと義勇を抱き上げた。

「じゃ、そろそろお開きにするか。部屋まで送る」
「え???あ、下ろしてっ。歩けるから。
…重いし誰かに見られたら恥ずかしいし」
義勇が腕の中でワタワタするが錆兎はかまわず歩を進める。

「軽すぎくらい軽いぞ。
この方が早いし、余計な輩が来る前にさっさと部屋に戻った方が平和だろう?
さいわい今ならみんなパーティーで広間にいるから誰も見てないし」

「え…あの…でもっ…」
「いいから捕まってろ。ちょっと近道するから」

言って返事を待たずに居住区まで直線距離を障害物を跳躍しつつ進む錆兎に、義勇はあきらめて素直に体を預ける。
そして室内に入ると錆兎は義勇をそっと下ろした

「到着」
と、あっという間にジャスティスの居住区のある5区までたどり着き、錆兎は義勇をそっと下ろした。


廊下には広い館内の移動を楽にするように動く歩道が通っている。

「乗るぞ」
錆兎は言って動く歩道に飛び乗った。

しかし義勇の方は
「うぁっ…」
そのスピードについていけず動く歩道に乗れずにつまづきかける。

そこで錆兎は義勇を軽く抱え動く歩道に下ろすとすぐ手を放し、腕を差し出した。

「ご、ごめん。面倒かけて…」

義勇は色が白いのですぐ紅くなるのが可愛い。
運動神経はどう見てもあまり良くはないのがありありと見て取れるが、それもなんだか物珍しくも可愛らしく感じる自分がいるわけで…

「どうしたしまして」
と錆兎は笑いを堪えて応じる。

そしてそのまま動く歩道で移動し、義勇の部屋の前で錆兎は普通の歩道に下りた。
もちろん今度は初めから義勇を抱えて助け下ろす事を忘れない。

「んじゃ、何かあったら電話しろよ。夜中でも早朝でもかけつけてやるから」
と踵を返す錆兎のシャツのすそを義勇はちょっとつかんだ。

「ん?」
「あ…あの…今日は色々ありがとう。…これからも宜しく…」
少し赤くなって上目遣いに見上げる義勇に、少しドキっとする錆兎。

「ああ…こっちこそ宜しくな。おやすみ。ゆっくり休めよ」
少し視線をそらして答え、
「おやすみなさい」
と手を振る義勇に軽く手を上げると踵を返した。










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