青い大地の果てにあるものsbg_第7章_極東ジャスティス冨岡義勇

数分後…

「ホラ。飲み物」
「あ…」
後ろから差し出されたグラスに少女は驚いて振り返る。
「どうした?」
ポカンとする少女に錆兎が声をかけると、少女は
「いえ…あの…会場に戻ったのかと思ったので…」
とおずおずと口を開いた。

「ああ…飲み物取りに行っただけ。
花見するにも飲み物くらいあった方が良いだろうし。
どうせなら護衛がてら一緒に花見でもするかと思ったんだけど」
と、錆兎がさらに差し出すグラスを受け取って、少女は
「ありがとうございます。でも…良いんですか?戻らなくても」
と、少し会場を見上げていった。

戻った方が良い…というか、カナエに頼まれている以上戻るべきなのだろうが、こんな少女を夜に一人で放置しておくわけにもいくまい。

極東支部のジャスティスの片割れは実は少しばかり縁がある人間というのもあるし、まあフォローはあとでしておこう。

錆兎はそう決断して、
「ああ、俺もどうせサボろうと思っていたし、お前が嫌じゃなければな。
一人でいたければ消えるから遠慮なく言え」
と、相手に気を使わせないようにとそう言うと、桜の下のベンチに腰をかける。

「嫌だなんて…あの…本当は一人でちょっと心細かったんです。
ありがとう」
少女は少しはにかんだような嬉しそうな微笑を浮かべて錆兎の隣に腰を下ろした。


「あの…もしかして本部の方…ですか?」
並んで桜を見ながら少女は口を開いた。

「ああ。鱗滝錆兎だ。気軽に錆兎って呼んでくれ。」
錆兎が言うと、少女は目を丸くした。

「あの…ジャスティスの?!お名前はお聞きした事があります。
最強って言われているジャスティスですよね」

「ん。ジャスティスってのはそうだが…最強っていうのは言いすぎだ。
単純な攻撃力なら遠隔系の方が強いと思う。
本部だと弓の善逸とか…極東の宇髄もそうだよな」
錆兎の言葉に少女は少し首をかしげる。

「ん~天元は…範囲攻撃が得意な中衛だから、一対一で近接で試合したらたぶん錆兎…の方が強いです」
呼び捨てで呼ぶのが恥ずかしいのか、少女の白い頬に少し朱がさした。

「天元?」
「あ、あの…宇髄は宇髄天元って言うんです」
「いや、それは知ってるけど…知り合いか?」
錆兎が振り向くと少女ははっとしたように口を開いた。

「ごめんなさいっ。私自己紹介まだでした。
ジャスティスの…冨岡義勇です」
こんなに愛らしいのに少女…じゃなかったのか。
と錆兎は内心驚きつつ、その疑問を口にしないで良かったと思う。
さすがに男として生まれたならば女と間違われたらキレるだろう。

まあ目の前の人物の性別は別として……

「義勇って今日の主賓じゃないか?」
錆兎に言われて義勇はうつむいてちょっと瞳をうるませた。

「です…よね。逃げてちゃだめ…ですよね」
いきなり涙目な義勇に錆兎はあわてる。

「いや、すまない。責めてるわけじゃなくて…。
単純になんでここにいるかな?と。
人ごみとか苦手なのか?それともああいう席が苦手か?」

「いえ…それもありますけど、とってもとっても怖い人が…」
ハンカチを手に肩をふるわせる義勇に、錆兎は聞き返した。

「怖いやつ?」
「…はい」
「良かったら…聞いていいか?」
義勇はコクンとうなづいた。

「あの…うちのブレインの部長さん…」

「きつい奴なのか?」
錆兎は挨拶に壇上に立った極東支部のブレインの部長を頭に思い浮かべた。
そして、きついようには見えなかったが…と不思議に思う。

「いえ…きついとかじゃなくて…なんていうか…
……よくわからないんですけど…俺が男だって信じてくれてないというか……」
「……??どういうことだ??」
頭にハテナマークを浮かべる錆兎。

「えっと基地にいるといつでも後ろにいて…下手すると自室に戻ると何故か鍵がかかってたはずの俺の部屋で待っていたりとか…
それで抱きついてきたりとか…あの…あの…なんていうか…性的な//発言されたりとか…
俺は女の子じゃないからって言っても、わかってる、わかってるって言いながらも全然きいてくれなくて…」
涙目で真っ赤になってうつむく義勇。

それに内心激怒の錆兎。
義勇は相手が性別を間違っているのだろうと思っているようだが、おそらくそうではない。
同性が好きなのか、あるいは、これだけ愛らしい容姿をしているので同性でも良いと思っているのかのどちらかだろう。

まあどちらにしてもそれはどうでもいいことだ。
問題は…極東支部のブレイン部長が権力をかさに着たセクハラ野郎だということである。

「外道だな。いわゆるストーカーか。周りの奴は何してるんだっ!」
「えと…ブレインは…逆らうと色々怖いから…」

確かに…本部でも好き好んで部のトップに喧嘩を売る人間はいないな、と錆兎も思う。
それでも本部ではそもそもがトップが職権乱用するような人物ではない。

「ここに来たからにはそういう奴は俺が張り倒してやるから、安心しろ。
まあ本部のブレインのトップは女だしそもそもが職権乱用するような人物じゃない。
フリーダムのトップは俺の親友だしな。
何も心配するな」
と言うと、
「あ…ありがとう」
と少年がかすかに涙目のまま笑みを浮かべる。

確かに…まあ可愛い。
少し自信なさげなその笑みはそんじょそこいらの女子より可愛らしい。

「まあ…とりあえず…」
錆兎はポケットから手帳とペンを出してサラサラと数字を書いて
そのページをやぶって渡す。

「これは?」
義勇は受け取った紙をまじまじと眺めた後、錆兎を見上げた。

「それ、俺の携帯。なんかあったらかけてきてくれたら助けるから。
まあ…何もない時にかけてきてくれてもいいけどな。
義勇の方の番号知られるのが嫌なら非通知でも構わない。
なんなら慣れるまで朝迎えに行ってやろうか?」

「え?でもそこまで迷惑は…あの…あの…でも…良いの?」
オズオズと涙の残る目で見上げてくる義勇に
「ああ。義勇が嫌じゃないなら」
そう錆兎が付け足すと、義勇はフルフル首を横に振った。
「嫌だなんて全然…すごく…心強いです」
ほっとしたように少し笑みを浮かべる義勇に、錆兎も少し表情を柔らかくする。

「じゃあ、そういう事で。もう少し花見するか」
錆兎はグラスをいったんテーブルにおいて上着を脱ぐとパサっと義勇の肩にかけ、またグラスを手に取った。

「あ…あの??」
「春先と言ってもまだ冷えるから」
「あ、ありがとう…」
義勇は言って、ありがたく少し寒さを感じ始めた体を大きな上着でくるんだ。

「あったかい…でも、錆兎は寒くない?」

上目遣いに聞いてくる小柄な義勇には錆兎の上着はかなり大きくてコートのようにすっぽりその体を包んでいる。
そのブカブカさ加減がなんだか可愛いくて、錆兎は少し目を細めた。

「いや、俺は鍛えてるから。それより頼みがあるんだが…」
「頼み?」
錆兎の言葉に首をかしげる義勇。

「これからは同僚だし互いに敬語やめような。なんか肩がこるから」
と、続く錆兎の言葉に義勇は
「うん。そうだね」
と少し涙の後の残る顔に花のような微笑をうかべた。











2 件のコメント :

  1. わ〜!!次回が楽しみです!!

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    1. ふふっ。ここからしばらくはsbgのターンです😁

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