「極東の事だろう?」
もう巻き込まれるのならさっさと話を進めたい。
なので、本部長室に入ってドアを閉めると、錆兎は自分から切りだした。
「うん。でもなんていうか…極東は色々複雑だって噂よね…」
と、今度は真菰が頷きながら答える。
そう…本部にいても色々噂は入ってくる。
良いものも悪いものも…
基本的にはジャスティスは事務方のブレインよりも現場で自分たちの補佐をしてくれる実働部隊であるフリーダムと関係が深いし仲が良い。
実際、イヴィルは倒せないものの雑魚の魔法生物に関しては普通に武器で倒せるものも少なくはないため、現本部長の不死川はよく錆兎と一緒に現場に出ていたので、二人は同僚と言うのを少しばかり超えた友人…戦友ともいえる仲である。
少し無理めの頼みはカナエよりも先にまず不死川に話を通して後押しをしてもらうことも多いし、ジャスティスは急な出撃もあるため休暇を取るのも順番なので、オフの日に誰かと遊びに行くとかになれば、ジャスティスの仲間よりも不死川を誘うことが多い。
他にも錆兎の知るジャスティスが居る北欧支部などもそんな感じのようだったし、欧州支部もそうらしい。
が、唯一、極東支部はジャスティスとブレインの仲が最悪だと聞いている。
もっと言うならば、極東支部のフリーダムだけではなく、本部のフリーダムの大ボスである不死川からして、極東支部のジャスティスに対しての感情は最悪だ。
というのも…遠隔アタッカーの善逸、純近接アタッカーのしのぶと蜜璃、タンクの炭治郎、そして基本的には近接アタッカーだが、状況によっては盾寄りの動きもこなす錆兎と真菰というように、様々な状況に対応する役割をこなせるだけの人材が揃っている本部と違って、極東支部は魔術系遠隔アタッカーの宇髄天元とヒーラーの冨岡義勇の二人組だ。
必然的に宇髄が攻撃をする時間を稼ぐまで敵を引き付けておく役割はフリーダムの部員が担うことになる。
もちろん一般人のフリーダム部員にはイヴィルは倒せない。
つまり本当に物理的に相手を抑えるいわゆる肉盾になるということだ。
それだけならまあ仕方ないと割り切れるくらいには皆プロだ。
問題は…宇髄の魔法は敵だけを都合よく選んで攻撃はしてくれない。
宇髄が攻撃するまでの時間を稼いでくれているフリーダム部員もまとめて丸焦げになる。
宇髄のせいではない。
性能の問題だと言ってもこれはキツイ。
そして…そうやって犠牲にする前提のせいか、宇髄もフリーダム部員と良い人間関係を築こうとはせず、むしろ嫌われるような発言が多いとのことだ。
そして…そんな風に宇髄の盾となって死んだ極東支部のフリーダム部員の中に不死川の弟がいるらしい。
当然、不死川としては心穏やかでは居られない。
そんな状況での極東支部のジャスティス…つまり宇髄天元と冨岡義勇の本部合流なので、揉める予感しかしてこない。
だから不死川と親しいジャスティスである錆兎に緩和剤になって欲しいという話が来るのは驚くことではない。
……が、このところ激しくなってきた敵の攻勢でかなり負担が大きくなってきた古参組としては、戦闘関係だけではなく人間関係の調整まではさすがに勘弁してくれと思っているだろうなぁと、真菰は秘かに錆兎に同情した。
それでも…どちらかと言うとなんでも自分で抱え込みたがる傾向のあるカナエがそれをおしても頼んでくると言うことは、よほど困っているのだろう。
友人としては力になってやりたいところだ。
しかしまあ、では錆兎の代わりが出来るかと言うと、錆兎ほどには不死川と親しいわけではないので代われない。
なので、
「もちろん私も間に入れるように努力はするわ。
でも、私もジャスティス本部長になって間もないし、不死川君を宥められるほどには彼と親しくなっていないから…」
とカナエが綺麗な眉を困ったように寄せて言うのに被せるように、
「…気持ちはわかるけど…今回のは抱え込んであげてね。
あんたの他の負担に関しては、あたしが出来る限り被るようにするから」
真菰はそう言葉を添えた。
正直…頼られることは多いのだが実は錆兎はデリケートなメンタル面のフォローとかが好きではない。
真菰もそれを知っているだけにそれ以外の錆兎の負担は自分が被る覚悟だったわけなのだが、錆兎はいつになくとてつもなく嫌そうな様子を隠すこともなく、しかし大きなため息をつきながらただ、
──わかった…。
と、答えた。
大抵の面倒ごとは諦めて受け入れて、諦めるからには表情には出さない。
表情に出るくらい嫌なことなら拒否する。
そんな錆兎にしては珍しい反応だな…と真菰は小首をかしげながら、それでも拒否されても困るので、まあいいか…と流すことにした。
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