青い大地の果てにあるものsbg_第2章_本部ジャスティス見参

――熱情、威厳、そして勇気を体現せよ…ピジョンブラッドソード、モディフィケーション!
伸ばした錆兎の手に胸元から紅い光が飛び、燃えるような紅い剣を形作る。

漆黒の制服と対照的に夜風にたなびく鮮やかな宍色の髪。
そしてその手に握る剣も鮮やかな紅色だ。

「じゃ、そう言う事で。行くぞ!」
「「「ラジャっ!!」」」

錆兎が有無を言わさず宣言すると、怖かろうと不安だろうとやるしかない後輩たちは覚悟を決めて敬礼で答える。

その掛け声を確認後、錆兎はブン!!と紅く光る剣を一振りするとミミズの群れに飛び込んだ。

そこで獲物が来たとばかりに一斉にむらがるミミズ。
だが、錆兎は冷静にそれを剣で薙ぎ払った。

紅い刃は剣圧だけで周りの大ミミズを叩き切っていく。
すると範囲としては広くはないが確実にできる幅2mほどの道。

そこがミミズでまた埋まらないうちにと、炭治郎と善逸が錆兎の跡を追って走った。


そうしてミミズを殲滅した時点で右方向のイヴィルに向かう炭治郎達とは分かれて、錆兎は一人左側のイヴィルへ。


性格は派手というわけでもないのだがオーラは派手で、滲み出る百獣の王、獅子の風格。
圧倒的な強者の空気をまとって、輝く猛獣が一気に敵に肉薄して、その手に収まっている紅い刃が暗闇を切り裂く。

その、ヒュン!と鋭い音を立てて襲い来る刃を寸でのところで避けた敵、イヴィルはおどおどと錆兎に視線を落とした。

185cmほどの錆兎が思わず見上げるほどの大男だが、容姿はというと卵形の胴体に短い手足がついたような、丁度童話のハンプティダンプティのような体格である。

その存在に妙にリアリティが感じられないのはその童話の登場人物と同様だが、違うのは全身緑色で、その表面にはそれより若干濃い緑色のブツブツに覆われている事だろうか…。

顔すらその状態で、近づいてみるとその中に埋もれるように目や鼻口があるのがわかり、遠目から見た滑稽さから一変して気味の悪さを感じさせる。

それでも11歳でジャスティスになって以来、日常的に異形の者を見続けてきた錆兎は、当たり前にそれをただの敵として認識している。
ただ一つ、いつもはお互いがお互いを認識すると同時に戦闘が始まるのだが、今日は違っていた。


「き…鬼殺隊の能力者…か?」
男はオズオズと錆兎を見下ろし、声をかけてきた。

その言葉に錆兎は油断なく間合いを取りながら短く
「見ての通り…」
と応じつつ、注意深く敵の動向を探る。

1人で対峙している以上、他からのフォローは望めない。
それどころか、確実に倒して早急に他のフォローに回らなければならない。
錆兎にとって戦闘というのは、多人数で来ていても常にそういうものだ。

唯一同じ時期にジャスティスになった古参組の真菰とは背を預け合う事もできるが、今日は彼女も立場的には錆兎と同じで、錆兎よりも優先して守らねばならないものがある。

ここは絶対に自分がこける事は出来ない以上、慎重すぎるほど慎重に…
錆兎はそう判断して、敵の出方を待った。

みたところ他意はなく、そういう個体なのだろう。
今回の敵は律義な性質のようだ。

「お…おれ、レッドムーンの仙人掌いう…。
おまえも名前名乗る.」
と、名乗る。

その男の言葉に錆兎は
「錆兎……鱗滝錆兎だ。
ま、すぐに覚えてもおけなくなるだろうけどな」
と、自分も名乗りつつも不敵に笑った。

その後それに続く
「い…良い名だな…おれ覚えておくぞ….本部行って、さびと倒した報告する…」
とのさらなる男の言葉には、今度は笑みを消してスイッと目を細める。

そして
「逆だな。報告するのは俺の方だっ!」
錆兎は言って剣を構えて一気に間合いをつめた。

敵も能力者だけあって剣圧で身にまとう服が切れるが、肌には傷一つつかない。
しかし剣の刃で切れば当然傷も負えば死にも至るはずだ。

剣の切っ先がその体を捕らえるまであと1mm…
(……っ!)
もう切っ先が触れるという段になって錆兎はあわてて飛びのいた。

シャキンッ!
今まで錆兎のいたあたりを敵から生えた無数の針がつらぬいている。


「よ….よけるとは、さ、さすが….なんだな。
で…でもこれでお前の攻撃…おれに当たらない…」
敵仙人掌の全身からは無数の長い針が生えてきた。

剣でなぎ払ってみたが、折れてもまたすぐ生えてくる。
おかげで剣が届く間合いに入り込めない。

「…ほぅ……」
錆兎はそれに焦る事もなく少し間を取ると、剣の柄に軽く二本指を置いた。

「…変形っ!」

唱えながら切っ先をまっすぐ仙人掌に向けて間合いを詰める。
剣は一瞬光に溶けたかと思えば一気に形を変えた。
そうしてその手に現れるのは紅い槍…

「グォォッ?!!」

ブスリッ…
鈍い音をたてて状況が理解できない大男の心臓を槍の刃先がつらぬいた。
槍を引き抜くと血飛沫をあげながらドサッ…と大男が倒れる。

針がパリンと割れて飛ぶのを錆兎は全て刃でなぎ払った。
そして今度は長い槍の柄に軽く指を置き、変形…とぽつりとつぶやく。
すると槍は光を放ちながら、再び姿を変え、剣となって錆兎の手に収まった。

それをチャキっと握り直して錆兎は他の仲間達にざっと目をやり、その後倒れた仙人掌に目をやる。

そして
「悪いな..こいつの形は一つじゃないんだ。
…というわけで本部にお前の事を報告させてもらう」
と、もう音の届かなくなった大男の耳に言葉を残して反転した。


こうして自分の担当のイヴィルを倒し終わった錆兎はザッと戦況を見渡す。

2人で1体のイヴィルに対峙している炭治郎と善逸は、時間はもう少しかかりそうだが大丈夫そうだ。
ということで、視線を真菰の方へ…向けるまでもなく、向こうからお声がかかる。

「ちょっと、サボってないでこっち手伝ってよっ!!
あたらしく1体わいて出たから」
との言葉に慌てて戻ってみれば、イヴィルがもう1体。

元々居たイヴィル2体はそれぞれしのぶと蜜璃が…そして真菰はなんと大量の雑魚ミミズを1人で処理しつつ新たに沸いたイヴィルを器用にいなしていた。

「…すごいな、真菰…」
と思わず感心する錆兎。

もちろんそう言いつつも足はそちらに向けていて、真菰がなんとか他の二人の方へ行かないようにと引き付けていたイヴィルをスルリと間に入って引き受けた。

「遅いよっ、錆兎っ!!
死ぬかと思ったっ!!」
と真菰は頬を膨らませる。

「悪い。なるはやで片付けたつもりだったんだが、もう一体沸いてるのに気づかなかった」

と、そこは自身の担当はこなして援護に駆け付けた自分に言われても…とは思うものの、決して楽ではない双方向の戦いをしている真菰に言うほど空気が読めないわけではない。

自分だって一体でも後ろに流したら一般人の住む町に甚大な被害を及ぼすであろう大量の巨大ミミズを倒しながら普通に自分と真菰以外はソロで倒すのはきついイヴィルを引き付けておくなんて神経を削る作業は絶対に避けたいと思う。

小さな体に不似合いな大きな大剣でそのデリケートで面倒な作業をやってのける真菰の武器さばきは本当にすごい。

そんなことを考えながらも錆兎はサクっと自身が取ったイヴィルを倒し、真菰もその間にようやく殲滅に専念できた巨大ミミズの群れを倒し終える。

そして、
「あたしは蜜璃ちゃんの方!」
と休む間もなくそう言って駆け出していくので、そこは暗黙の了解ということで錆兎はしのぶが対峙するイヴィルへと向かって行った。

そしてそれぞれがイヴィルを倒し終わると、最後に集合。
みんなで見逃した敵がいないかを確認後、戦闘は終了した。









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