青い大地の果てにあるものsbg_第1章_序章

──ひっ……

ジャスティス一の素早さを誇る自慢の足で仲間達より一足先に指定された現場に来てみれば、目の前に広がっていたのは多数の大きなミミズのような生き物…
ウネウネと動き回るそれを見て胡蝶しのぶは小さな悲鳴を上げた。

そして脳裏には本部内でも評判の美女である姉が
「今日は敵が多いから。久々に全員で行ってきてね」
と食えない笑みを浮かべた姿がクルクルと回る。

ああ、別に嘘をついているわけではないけれど…としのぶは綺麗な眉をしかめて思う。
せめて大量にいるのはこういうモノだと言っておいて欲しかった。
そうすれば覚悟もできたのに…と。

目の前のそれは、いきなり対峙してその中に突っ込むのには、幼い頃から戦いに身を投じてきていい加減戦闘慣れもしてきているしのぶでも気持ち悪い。
出来れば近づきたくないと思う。

それでも真面目な彼女には任務を放棄して逃げると言う選択肢はなかった。

なので隣で泣きわめいている俊足組の善逸と蜜璃に
──泣いてる暇はありませんっ、行きますよっ!
と声をかけてさらに泣かせつつ、胸元のペンダントに手をかけて

──平和を司る高貴と気品の紫の宝玉アメジスト…モディフィケーション!
と唱えると、それは煌めく光となって妖精のように細く綺麗な彼女の足を包むブーツに変わる。

そのかかとをトントン!と軽く鳴らすと、しのぶはミミズに飛び込む構えを見せた。
顔だけで食っていけそうな…と善逸を始めとする男どもが称するほどに美しい顔に凛々しい表情を浮かべるしのぶに、それまで泣きわめいていた善逸は一瞬泣き止んで見惚れてしまう。

しかし
──善逸さんっ!さっさとするっ!!
と、そこに容赦なく飛ぶしのぶの叱責。

それに善逸が反応する前に、彼と同じく目の前の気味の悪い巨大ミミズに固まっていた蜜璃が意を決したようにしのぶと同じくペンダントに手をかけて

──美・愛・優しさを司るローズクォーツ、力を貸してっ!モディフィケーション!
と唱えて両手を広げると、ペンダントはピンクの光を帯びて彼女の両の手を包み込み、ナックルへと姿を変えた。


乙女二人がそうして臨戦態勢に入ってしまえば、さすがに善逸も自分だけ逃げるわけにはいかない。

渋々
──希望、誠実、友情の石、行くよ、トパーズ、モディフィケーション。
と自身のペンダントを黄金色の弓矢に変えた。

それを確認後、
──じゃあ行きますよっ!
と飛び出そうとするしのぶだが、そこでコツンと軽く拳が降ってくる。

「焦るな、しのぶ。
盾もなしで飛び込んで全滅したら元も子もないだろう」
「そうだよっ。戦う相手にも向き不向きがあるからね」

俊足組から一歩遅れて宍色の髪の長身の青年がキリリとした眉をやや寄せて苦言を呈した。
その横には花の髪飾りをつけた可愛らしい少女。

「錆兎兄さん…真菰さん…」

気の強いしのぶのこと、他の人間がそんな態度を取ったら回転の速い頭の中から飛び出てくる毒舌の洗礼を受けることにうけあいだが、彼女が目上と認めているどころか兄や姉と慕っている同僚相手なので、素直にごめんなさいという言葉が出てくる。

そうして一呼吸おいて落ち着いたらしい彼女に引きずられていたあとの二人もホッとしたように息をついた。

「数も多いしイヴィルも複数いるから、担当を決めるぞ」
と言う錆兎に意を唱える者は到底いない。

素直にうなずく3人に彼は前方の様子は警戒しながらも話を進めることにした。



時は西暦2800年。第3時世界大戦勃発後、全人類の9割が死に絶えた地球。
文明も国家もかなりが崩壊し無法状態と化すも、やがて一部の人間を中心に秩序ある世界に戻そうという団体が生まれる。
世界の警察、鬼殺隊…やがてその団体はそう呼ばれるようになった。

そしてそこは主に3種類の部署で構成されている。
一つは主に普通の人間で構成される研究集団兼事務方である通称"ブレイン"
同じく一般人で構成される諜報部隊の通称 “フリーダム”
そして最後は武器化するクリスタル"ブレストアームス"に選ばれた極々少数の特殊戦闘員"ジャスティス"

彼らはそのジャスティスである。

その黒い戦闘スーツに身を包んだ胸元に揺れるのはアームジュエリー。
この世にたった12個しかない貴重な宝石のうちの一つだ。

ジャスティスはそのジュエリーによって選ばれるため、その人数は当然12人のみ。

そして…今世界中を恐怖の渦に陥れている謎の組織、レッドムーンの特殊戦闘員イヴィル・デーモンに傷を負わせる事のできるのは、このジュエリーを変形させたブレストアームスだけである。

そう、ゆえに世界の平和はこのたった12人しかいないジャスティスの肩にかかっているといっても過言ではないのだ。


世界中にいくつかの支部があるが、本部に配属されているのはそのうち6人。
最初に到着したしのぶ、蜜璃、善逸…ついで追いついた錆兎と真菰。

そしてすぐに最後の一人炭治郎が
──すみませんっ!遅れましたっ!!
と、駆け寄ってきた。


「ふむ…全員揃ったな」
と腕組みをして全員を見回す錆兎。

真菰と並んで最古参なだけあってほぼ毎回二人が仕切りをするので他4人は先生の指示を待つ生徒のように彼らを見上げてその指示を待つ。


「数多いミミズは私と錆兎で半分ずつ。
で、…イヴィルはどう分ける?」
とまず先に口を開いた真菰が自分より頭二つは大きい錆兎を見上げた。

それに錆兎はう~ん…と腕組みをしたまま少し考え込んだあと、
「俺が西側突っ込んで西側のミミズを殲滅。
そのまま左側のイヴィルをとるから右側は炭治郎と善逸。
東側は真菰がミミズ殲滅するまでしのぶと蜜璃でイヴィルを一体確保。
で、真菰がミミズ踏みつぶしたら順番に補佐に入って一体ずつイヴィルを倒していくってことでどうだ?」
と、これは真菰はもう了承するものとして、他4人に視線をむける。

「頑張りますっ!」
と、それにまず炭治郎がピシっと手を挙げて宣言。

それに続くように善逸が
「うん、炭治郎、頑張ってね」
と言って
「お前も一緒に頑張るんだぞっ!」
と、お約束の突っ込みをいれられた。


まあこちらは盾と心身ともにヘタレではあるがこう見えて単体火力としては実は6人の中で最強の部類の遠隔アタッカーの鉄板コンビなので、それでも心配はないだろう。
問題は近接アタッカーの後輩乙女組だ。

「…努力は…してみます」
「…一人で?頑張ってはみますけど…大丈夫かしら」
と、どこか不安げな様子である。

そのあたりのデリケートなメンタルのフォローは自分の役目じゃないとばかりに真菰に任せることにして、錆兎は、
「先に行く」
と、自分の胸元に手をかけた。







0 件のコメント :

コメントを投稿