人魚島殺人事件_27_来ない斎藤と宇髄の大人な対応

「会長様がどうしたって?」
そこに善逸を伴った宇髄が入ってきた。

「あ、宇髄君。義勇ちゃんはどう?」
その言葉にそれまで黙って黙々とミシンを使っていた綾瀬が顔を上げる。

「ん~、ただの貧血じゃねえかな。今会長様が付き添ってる」
「大丈夫?」
「…だと思うぜ?特に連絡ないし。
少しでも大丈夫じゃなければ会長様が大騒ぎで軍関係者のOBにでも連絡してヘリでも呼んでるだろうしな」
「あはは。
なんか完璧で冷静なイメージあるのに、恋人の事となるとそんな感じなんだ?あの会長様が」
と、冗談めかして言う宇髄に笑う綾瀬。

なごむ面々の中で不機嫌な顔の古手川と、浮かない顔の水野。

そこでメイドが夕食の準備ができた事を告げにくる。

今リビングにいない面々に関しては部屋に内線電話で伝えているが、斉藤だけ部屋にもいなくてつかまらない、と、メイドが宇髄に耳打ちした。

「どうするの?」
と隣で困った顔で見上げてくる善逸に宇髄が耳打ちする。
「あ、そうだね」
と頷く善逸を置いて宇髄は水野に駆け寄った。


「水野さん、ちょっと」

いきなり側に来られた事で、水野がビクンと身をすくめる。
その様子に宇髄はちょっと困った顔をした。
それに善逸が苦笑する。
そして善逸も駆け寄ってくると、水野に向かってにっこり話しかけた。

「お忙しいところ申し訳ありません、水野さん。少しだけ今お時間よろしいですか?」

「あ、はい」
善逸の言葉に水野はちょっとホッとしたように力を抜く。
宇髄はその様子に少し考え込んで、そして善逸に耳打ちした。

ぽかんとして自分を指さす善逸。
その善逸に対しても宇髄は少し笑いかけて
「あとで説明するから、ここは頼むわ」
と善逸の肩をポンポンと叩いた。

それに少し不思議そうに頷きつつも善逸はまた水野を振り返った。

「えとですね、実は夕食の時間ということを全員に知らせて回っているんですけど、斉藤さんだけ自室にもいないらしく、連絡が取れなくて係の方が困ってるらしいんです。
それで、もしご存知でしたら斉藤さんの携帯電話の番号を教えてもらえないかと思いまして。
もし番号を教えるのが差し支えあるという事でしたら、水野さんの方で番号を回してもらって通話終了後履歴を削除という形を取って頂いても構わないんですが、お願い出来ないでしょうか?」

「あ、はい。わかりました。」
水野は差し出された携帯を受けとって番号を押して、善逸に返す。
それを耳に当ててコール音5回。電話は留守電に変わった。
善逸は電話を切って首を横に振る。


「どうしようか?」
善逸が少し眉をひそめるのを軽く制して、宇髄がまず水野の方に視線を向けてまた善逸に耳打ちをして何かを促した。

善逸はそれに頷いて、
「ご協力ありがとうございます。お手数おかけしました。
今かけてみたのですが斉藤さんが出られずに留守電に変わってしまったので、一応許可もらってない電話番号ですし今はいったん履歴を削除させてもらいますけど、このまま斉藤さんの行方がわからないようならまた電話をかけて頂く様お願いする事もあるかと思います。
その時はお手数ですけど、宜しくお願いします」
と、笑顔で礼を言って頭を下げた。

「あ、はい。わかりました。」
水野もそれに応えて軽く会釈をする。

「助かります。ありがとう」
と善逸がにこりとそう言うと、宇髄は軽くその腕をとって部屋の隅へと移動した。


「とりあえず…もう食事で俺らが席つかないとみんな食えないし、聞きたい事は山とあるのはわかるけど、詳しい説明は後で部屋でな?
今は一番大事な一つだけ。
お前に対する説明とかより水野に対する対応を優先したのは親しさの違いだ。
別に説明なしにやることだけやらせるとか、お前を道具のように使って良いとか思ってるわけじゃねえ。
親しい相手ほどフォローが遅れてもそれまでの人間関係を考慮にいれて許容してもらえるという認識の上で俺は行動してるからな」

「宇髄さん…大人だね…」
と善逸はそれに感嘆のため息をついた。

確かに聞きたい事は山とあったが…絶対的に必要で絶対的にして欲しかった説明は今宇髄が言った一点だけな気がする。

まあ自分を体よく使う人間なんて今までやまといたので、善逸的にはそれが気に障るとかいうことはない。
よくあること過ぎていちいちそれをひどいとか思う感覚がない。
錆兎や炭治郎はわかりやすく他人よりも善逸を優先してくれるが、それはレアケースである。

だが、そんな仲間たちとも違って、自分と対峙していても他の人間の事も視野にいれ、それでいて自分との人間関係が致命的にならない程度のフォローはいれる…そんな宇髄の気の使い方は自分と一歳違いの人間のそれではないと思った。
少なくとも今まで自分の周りの学生にはそんなことまでできる人間はいなかった。
至れり尽くせりとかなわけでもないのに心地よい、絶妙な気の使われ方だと思う。

これがお育ちの差なんだなぁ…と、善逸は快不快よりも先に感心したのだった。








0 件のコメント :

コメントを投稿