──あ~びっくりした…
錆兎達の正面に位置する暗い空き部屋で誰に共なくつぶやく善逸。
その脳裏にはさきほど錆兎達の部屋で見た光景がクルクル回っている。
義勇はそれでなくても肌が透き通るように白くて、宇髄が用意した黒髪ロングのウィッグがはだけた着物から見える白い肩に零れ落ちる様は壮絶に美しくも色っぽい。
そして着物を脱がせるためになのだろう。
その細い肩に置かれていた錆兎の手の大きさ…。
ちょうどドアからは背を向けている形だったのだが、背中がすでに違う。
義勇は善逸と比べても細い方だと思うのだが、錆兎は背も高くて筋肉質で、まるで彫刻のように美しくも逞しい。
その体系差がまた善逸の妄想を色々と増長させた。
そんな二人の姿を思い返している彼の脳裏からは、義勇が同性だということなど綺麗に忘れ去られていた。
ただ見てはいけない友人達の濡れ場に遭遇してしまったと、それだけが脳内をグルグル回って彼を動揺させている。
そうして脈打つ心臓を落ち着かせるように胸に手を当て、す~は~す~は~と深呼吸。
少し落ち着いたところであたりを見回した。
(ここ…荷物置き場になったのかぁ)
と、そこでようやく自分の逃げ込んだ場所を認識する。
確か錆兎と義勇がツインルームを使う事になったため、善逸を始めとする禰豆子に巻き込まれた組の部屋として用意された5部屋のうちの端から2部屋は空き部屋になってる。
それを荷物置き場として利用しているらしい。
部屋の床には撮影機材やら布地やら諸々が置いてある。
部屋の造りは当然ながら全く一緒。
まあここに居ても仕方がない。
さて出て自室に戻ろうか…と善逸がドアに向かいかけた時、不意に
(ヴゥ…ウゥウ…)
という、獣のうめき声みたいな物がかすかに聞こえた。
ひぃぃ~!!!
と臆病な善逸はその声にすくみあがる。
見たくない…とは思うものの、気になる訳で…
おそるおそる善逸が声が聞こえてくる壁の方を振り返ると…その壁にボ~っと浮かび上がる顔。
そう…顔だけが壁に浮かび上がっている。
お…ば…け…
そう…当たり前だが怖いものが嫌いな善逸はそれがものすご~~~く苦手だった。
そして…それを目の前にして緊張と恐怖がピークに達した時…ぱったりと気を失ってその場に倒れた。
気付いたらベッドの上。
「良かった…夢だったのか…」
ベッドの端に腰をかける宇髄を目にした時、善逸はホッとため息をついた。
「お前…器用だな。あの短い時間でなんで寝れるんだよ。
そもそも空き部屋で眠り惚けてちゃだめだろうが。風邪引くぞ」
それに苦笑する宇髄。
そう…あれから善逸を探しに出た炭治郎は空き部屋のソファで気を失っている善逸を見つけたのだが、物も多く引きずっていくと何かを壊しそうだと宇髄に報告。
そこで腕力のある宇髄が善逸を抱えて部屋に戻したのだ。
もちろん…二人とも気を失ったなどと言う事は知らない。
ただ逃げ込んだ部屋で眠ってしまったのだろうと思ったのだ。
ゆえにこの発言なわけである。
普通はここでそれを指摘するわけなのだが、善逸はあまりに非現実的な出来事だったのでそう言われるとそう思ってしまった。
「あ~そうだったのか。俺あそこでなんでか寝ちゃって夢みてたんだな」
と、気恥ずかしそうに頭を掻く。
「…ったく…ノンキだよな、お前は」
と、そんな善逸の言葉を疑ってみることなど当然なく、宇髄は苦笑をしつつくしゃくしゃっと善逸の頭をなでまわした。
こうして善逸が気づいて少し経った頃、タイミングよく夕食を知らせる内線が鳴ってその話はいったん置いておかれることになる。
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