そうして一人で泣いていると、おそらく禰豆子が連絡したのだろう。
錆兎が慌てた様子で部屋に戻ってきた。
と言いながら駆け寄って来て、そして義勇が籠っていた布団を少しめくると、何かを悟ったように苦笑する。
──なにか…嫌な事、不安な事でもあったのか?
ポスンとベッドの端に腰を掛けて宥めるように優しく義勇の髪を撫でる大きな手。
少なくとも今の時点では水野が現れたからと言って義勇を疎ましく思ったりはしていないらしい。
そこで少しだけ安心して義勇は寝ころんだまま隣に座る錆兎を見上げた。
…ん?というように錆兎が少し身をかがめて耳を寄せてくるので、義勇は内緒話のように小さな小さな声で、
──水野さん…女性だし、錆兎が好きなタイプかと思った…
と零す。
錆兎はそれに目をぱちくりして一瞬かたまり、それから大きなため息をついて
──ブルータス、お前もか…。
と、やや呆れたような声で言った。
呆れられた…と思いつつも、義勇はそのことに安心する。
呆れると言うことはつまり、全く見当はずれな事を言っているということなのだろう。
そこでホッとして水野に強い視線を向けられていた気がすることと、それから考えた事を伝えると、錆兎は、ん~~と少し困った顔をした。
「たぶんな、水野さん、今ちょっと困ったことになっていて、頼れる人間が欲しいらしいんだ。
で、俺が普通に小手川さんに意見していたのを見て俺の事を他に影響されない強者だから頼りたいと思ったらしい。
でも俺は優先順位があって、当たり前だが恋人のお前が一番であとは宇髄や炭治郎達友人が二番、その後となるとかなり後回しになるしな。
返って申し訳ないから、他を紹介するということになったんだ。
だからお前が気にするような必要はないぞ。
とりあえずこの館の主で今は一番の強者のはずの宇髄が引き取ってくれるそうだから、それを彼女に伝えれば解決だ」
錆兎は本当に本気でそう思っているらしい。
でもそれはたぶん違う。
彼女は錆兎に恋をしている。
同じ立場の義勇にはそれがわかってしまう。
頭が良くて他のことには敏い錆兎なのだが、己に対する好意には疎すぎる…と義勇は思ったが、錆兎が彼女の自分に対する想いを含めて彼女に興味がないのは幸いだ。
わざわざ藪をつついて蛇を出したくはない。
だからそれはもう追及しないことにした。
なのでその話は終わりと言うことで、綾瀬に性別がバレた方に話を移す。
それにも錆兎は少し驚いた様子で、しかし
「まあ…服飾の専門家だと視点が違うのかもな。
でも彼女は平井さんの同級生ということで誘われてきたということだから、争っている辺りとのつながりはなさそうだし、まあ…俺の勘だが作品に支障が出ない限りは無害な人だ。
その彼女がお前を自分の作品に使いたいということなら、むしろお前に関してはかばってくれるだろうし信頼して良いと思う」
と、太鼓判を押してくれた。
恋愛事情については疎いが危機管理については錆兎ほど頼りになる相手を義勇は知らない。
なので錆兎が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。
義勇がようやくホッとしたところで、錆兎は
「休むなら着物は着替えた方がいいだろう。
皴になっても困るしな」
と、義勇を助け起こして、着替えを手伝ってくれる。
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