睨まれている…そう感じるくらいには強い視線だった。
義勇達が着る衣装のデザインを担当している女子大生綾瀬がまだ話し足りなさそうだったのでデザインのモチーフの話に付き合っていた時のことである。
名前は…水野と言ったか…。
小柄でどこか儚げで…もっと言うなら薄幸そうな女子で、面倒見のいい錆兎が割合と好きなタイプだと思う。
………何があったんだろう…と義勇はため息をつく。
小手川と違って錆兎の元会長としての人脈に惹かれている様子もなかったので、何かあったのだとしたらさきほど小手川に呼び出されて二人ででかけた時しかない。
錆兎とずっと一緒にいるようになって、わかったことがある。
イケメンだがどちらかと言うとキツイ顔立ちで相手によっては厳しいことも言ったりするので一見そうは見えないが、錆兎は基本的には度を越えて優しい。
弱者には特に…。
しっかりと自己が確立していると言うか、自分は自分で成すべきことをするという信念があるようで、この年頃の男子によくありがちな、優しくするということに対する照れというものがないし、強い人間にありがちな自分が大丈夫だから皆大丈夫であるという思い込みもなくて、相手がどんなことに困っているか、助けて欲しいかをよく察して助けてやれる。
義勇と最初に出会った時の錆兎の行動も、おそらくそんなところから来ていたのだろう。
錆兎からすると弱者に対しての取るべき行動を取ったに過ぎなかったのだろうが、その優しさを与えられた弱者から見るとそれがどう映るかは実際にその立場だった義勇には嫌になるほどわかっていた。
義勇が彼女と違うのは、義勇の時には錆兎に恋人が居なかったこと。
いや、それ以前に同性だったために自分が彼の特別になれるなんて思っていなかったことだろう。
でももし異性だったとしたら、あるいはもしも?と思うのかもしれない。
そして彼女は知らない事ではあるのだが、義勇は同性だから一般的には異性である彼女の方が錆兎の傍に居るのにふさわしいと思われるだろう。
そう…彼女は普通に恋人として周りにも紹介できるし結婚だってできる。
それどころか錆兎の子を産むことだってできるのだ。
同じように錆兎の好みのタイプなのだとしたら、彼女の方が恋人として好ましい。
そう思ってしまうと、なんだか自分の方が本来幸せになれるはずの二人の邪魔をしているのではないだろうか…と思えて来てしまう。
本当に…そう考えると自分は王子の幸せを願って自ら身を引いて海の泡になった人魚姫にふさわしくない。
むしろ王子の勘違いを正さずにその嫁に収まった姫のようだ。
それでも自分から錆兎の手を離したりなどすることは出来そうにない自分がひどく汚い人間のように思えてくる。
そんな自分を人目にさらすのが嫌で戻った自室。
心配して同行してくれた禰豆子と綾瀬には帰ってもらって、一人でベッドにもぐりこんで布団をかぶって、義勇は声を殺して泣いた。
申し訳なさと…そして、錆兎が勘違いに気づいて自分から離れていってしまうかもしれないという恐ろしさに…
そういえば…今回の発端になった禰豆子はもちろん、錆兎も宇髄も、そして炭治郎も善逸も今回の着物姿をそんじょそこいらの女性では敵わないくらいの美女っぷりだと褒めてくれたが、さきほど二人きりになった時に綾瀬になんと性別を気づかれて指摘されてしまった。
禰豆子にも小手川にもなんのしがらみもなく、単に自分の作品を美しく見せられれば他はこだわりがないと言う綾瀬はそれでも義勇が雰囲気や体格的に自分の服のイメージに合うので問題ないし、他には言わないと約束してくれたのだが、人によっては不自然に感じられてしまうくらいには女性の格好が不似合いなのかもしれない…。
そんな不安もあって、義勇は絶望的な気持ちになっていた。
非常に細かいところですが「一目にさらす」→「一目にさらす」の誤変換かと思いますのでご確認ください。(*- -)(*_ _)ペコリ
返信削除一目→人目ですね。
削除ご指摘ありがとうございます。修正しました😊