そして待ち合わせの場所。
ヒュン!と何かが飛んでくる。
まっすぐ水野のと錆兎の間あたりに飛んでくるそれを錆兎が反射的に掴むとそれはガラスの短剣だった。
撤去する前に持ち出された物らしい。
親指と人差し指で掴んだその短剣をまじまじと見た後、錆兎はポケットから最近出かける時はいつも持参しているビニール袋を出してそれを放り込んだ。
そしてそれが飛んで来た方向をキっとにらみつける。
「ご、ごめんな。鱗滝君。ちょっと手が滑った」
慌てて頭をさげる高井。
その横では古手川がポカ~ンと口を開けて惚けている。
「俺は構いませんけど…水野さんに当たったらどうするつもりだったんですか?
女性ですよ?
怪我をさせて傷跡でも残る事になったら責任持てるんですか?」
あきらかにここでそれを投げる意味はない。
という事は故意に自分達に向かって投げつけられたということで…。
静かに…それでも厳しく糾弾する錆兎に青くなる高井。
その隣ではようやく我に返ったらしい古手川がケラケラと笑った。
「その時は高井が嫁にもらってやるってさ、水野」
その言葉に錆兎はムッとしたように少し目を細める。
「高井さん…右利きのようですね。
ということは、投げたのは飛んで来た方向からして左利きの古手川さんのようですが…?
まあ、水野さんにも選ぶ権利はありますしね。
そういう意味ではあえて高井さんに古手川さんが個人的に自分の尻拭いを”お願いする”のは賢明ですね。
一般的に見て高井さんの方が夫としては好ましい人物になりそうですし」
自分が連れてきた取り巻きの一人である水野に向けたからかいの言葉に対して錆兎が反応したことで、古手川は焦ったように言葉に詰まった。
しかしその様子にクスリと思わず笑いをもらした高井を古手川はキッとにらみつける。
「で、でもっ!お、俺が投げた証拠はないじゃないですかっ」
古手川の言葉に錆兎はガラスのナイフの入ったビニールをちらつかせた。
「高井さんは今、草を抜いたりするために軍手してますよね。
…ってことは…俺以外の指紋ついてたらそれは投げた当人ということで…警察に仲の良いOBいるので調べてもらいますね」
にこやかに言う錆兎に古手川は今度は青くなった。
「傷害未遂…ですか。証人もいますね」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!」
慌てる古手川に錆兎はスッと目を細める。
「俺は女性に能動的に怪我をさせる人間は外道という認識なので、あまり温情をかける気はないんですが…水野さん次第ですね…。
世の中には…”ごめんなさい”という言葉があるそうですが?」
錆兎と敵対はしたくないものの、目下だと思っている水野に謝罪するのは嫌ならしい。
なので古手川は、
「おい高井!水野に謝ってやれ!」
と高井を押し出す。
「あ、はい。水野さん、ごめんな」
言われて慌てて謝る高井を見て錆兎は両手を腰にあててため息をついた。
「どうやら…”日本語”が通じない様ですね、古手川さんには。
英語かフランス語で言いましょうか?
それとも”ごめんなさい”という言葉は水野さんより警察に言いたいと、そういう事でしょうか?」
もう…言い方が宇髄のようだな、と、錆兎は若干毒されて来たらしき自分をおかしく思った。
しかしその言い方は相手を苛立たせる効果も…そしてそれでもなお謝罪の言葉を口にせざるを得ない気にさせる効果も絶大だったらしく…古手川はひどく顔をゆがめながらも
「水野、悪かったなっ!」
と、それでも渋々謝罪を口にする。
水野はそれに少し戸惑ったように
「い、いえ…。」
と消え入りそうな声で言うと、錆兎の後ろに隠れる様に下がった。
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