人魚島殺人事件_15_悪意があるのは…

そうして3人がリビングへ足を踏み入れると、まず裁断した後の布地を丁寧にたたんでいた松坂が、
「天元、大丈夫だったか?見たところ怪我はないみたいだけど…」
と声をかけてきた。

それが何を示すのか…思い当たる事は一つしかない。

「なんだ綾太郎、見てたのか?」
少し驚いたように宇髄が聞くと、松坂はうなづいた。

「ああ。日の光の下で生地の色見たくて少しだけ庭に出た時にな。
お前が楽しげにそっちの美少女二人と両手に花状態で楽し気に話してたから、こっちは野郎二人で布と格闘してんのにうらやましいな、こんちきしょう!そこ代われって思いながらしばらく見てた(笑)
で、布を片手に立ち上がった時に何かあれ…透明な短剣みたいなもの?が落ちて来たの見えて…。
でもまあお前はちゃんと二人守って反応してたし、お前にも特に血とかも見えなかったから大丈夫なのかな~って思って部屋に戻った」

そんな風に深刻になりすぎないように少し冗談めかして場を和ませながら話す気遣いは宇髄の友人らしい。

しかし話している内容はとんでもないことじゃないんだろうか?
と、これまでさんざん事件に巻き込まれてきた炭治郎と善逸は松坂の発言に青ざめる。

「…血って……」
と思わず善逸の口から洩れる声に、宇髄はことさらなんでもないことのように
「大丈夫、大丈夫っ。
俺は天才だからあのくらいは余裕で対応できるし、まあ最悪でも間に合わなければ覆いかぶさるようにすりゃあ体デカいからお姫さん二人の肉盾くらいにはなれるから」
と手をヒラヒラさせながら笑った。

しかしその言葉に善逸は
「そういう問題じゃないでしょおっ!
宇髄さんだったら怪我していいわけじゃないっ!!
怪我したら危ないのも痛いのも一緒じゃないっ!!」
とさらに青ざめて唇を震わせる。

普段温和な善逸がいきなり涙目になって怒鳴るのに驚いて目を丸くして固まる宇髄と松坂。
一方で自分のことに対しては激昂することはまずないが他人の痛みには過敏なくらい敏感な善逸の性格をよくわかっている炭治郎はそれをまあまあとなだめながら、手にした布地をいったんテーブルに置いて、

「落とした奴、見ました?」
と、横に座る松坂に視線をむけた。

「いや、一瞬だったし遠かったからな。顔までは見えなかった。
でもチラっとオレンジの影が見えた様な…」
「オレンジの?」
と、その言葉に炭治郎ははちょっと眉をひそめる。

そして禰豆子は
「ちょ、斉藤さんじゃないんですか?それ!」
と眉を吊り上げて言った。

それに騒然となる中で難しい表情をしながらも炭治郎は
「それだけでそう決めつけるのは良くないぞ」
と、飽くまで静かな口調でそう妹を諭す。

「でも動機も充分じゃない!」
もう頭の中では斉藤有罪説ができあがっている禰豆子をさらにたしなめるように
「物証がない。
松坂さんは”見えた様な”って言ってるだけだぞ。
そんな曖昧な証言で有罪判決出すのはあまりに早急だ。
ことがことだけに簡単に決めつけた上で違っていたら『間違ってました。ごめんなさい』じゃすまないし、そもそもがもし斎藤さんじゃなかった場合、危険な行動を取った犯人を野放しにすることになるからそれも危ない」
と、冷静な口調で付け加えた。

そのあたりはさすがに何度も事件に巻き込まれ続けただけあるということか…

その炭治郎の言葉を宇髄が引き継ぐ。

「物理的には今ここにいなくて一人で上に行く事ができたのは、モデルとしてきた3人と、馬鹿様、高井、あとは…平井?
まあ会長様はありえねえとして、綾瀬は会長様といるから白な」
と、話を先に進めた。

「で?」
と、それに松坂が腕組みをして先をうながす。

「古手川さんと高井さんは窓から戻るくらいの事しないと玄関通ったならリビングの人間に気付かれるから難しいよな」

その空気を割り開くように声がドアの方から聞こえてくる。

「錆兎…」
善逸がどこかホッとしたようにドアの方に目を向けた。

そして禰豆子と宇髄の横に居た義勇が
「錆兎っ」
と、嬉しそうに錆兎に歩み寄ってその腕の中におさまる。

猫ならゴロゴロとのどを鳴らしていそうな犬なら尻尾をぶんぶん振っていそうな、とにかく嬉しくて仕方がないといった感じの義勇に綾瀬が微笑まし気な視線を向け、錆兎はようやく自分の腕の中に戻ってきた恋人様を愛おし気に見下ろしながらも

「まあ…とりあえず大事には至らなかった様だし、完全に特定はしない方がいいな。
食事の時に警告するくらいにしておこう。
追いつめてもかえって余裕をなくした相手が暴挙にでる可能性あるし」
と最終的にそう結論付けた。

とりあえずそんな風に会長様の一言でその話はいったん終了となる。







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