人魚島殺人事件_13_第一の悪意

──義勇さん、本当に綺麗!驚きましたっ。
こうして3人、中庭に出て開口一番、禰豆子が言う。

──なんか綺麗すぎて私なんかが女やってていいのかって思うくらいですっ!

普通ならリップサービスかと思うところだが、宇髄もそう思う。
いや、別に禰豆子が女としてどうというわけではなく、彼女は彼女で十分美少女なわけなのだが、こうして義勇と並ぶと本当にただの一般人に見えた。

美しさの次元が違う。
ひと事で言うならそんな感じだ。

ここで普通なら謙遜の一つでもして、いやそんなことは、いいえそうですと互いに譲りどきがわからずに不毛なやり取りに突入するところなのだが、義勇は違う。

──そう見えているなら…嬉しい。完璧な錆兎の隣に立つのにふさわしい人間になりたいから…
と、ふわりと嬉しそうな笑みを浮かべた。

綺麗な顔立ちがそうやって錆兎の話題を口にする時はなんだか可愛らしい顔になる。
宇髄はそれを心で思っただけだが素直な性格の禰豆子はそれをそのまま口にして義勇の顔を赤くさせた。

そんな和やかな会話を交わしながら3人は中庭のテラス席へ。
いくつかのパラソルの下に丸いテーブルを挟んで椅子が2つ。
宇髄はまず義勇と禰豆子を座らせて、自分は隣のテーブルのところから椅子を一つ引っぱって来て座った。


そして華奢なテーブルの上にある呼び鈴を鳴らすと駆けつけてくるメイドに
「何か飲み物を…俺はアイスコーヒー…で?」
と、宇髄は二人に視線を向けた。

「私はアイスティで…禰豆子は?」
「じゃ、私もアイスティでお願いしますっ」
と二人がそれぞれ答えるとメイドが礼をして下がって行く。

それを見送って
「そういえば…ここついてからずっとそれですよね」
と、禰豆子が始めた。

「…それ?」
と小首をかしげる義勇。

「ええ。当たり前に俺とか僕じゃなくて”私”なんだなぁと思って…」
「ああ、それは…」
と、そこでようやく思い当ったのか義勇は頷いて言った。

「一応女性モデルとして来ているから言葉は気をつけないと…」
とニコリと綺麗な笑みで言う義勇に、ほわわぁ~と謎の擬音語と発しながら見惚れる禰豆子。

「プロと言うか…完璧ですねっ!」
「…う~ん…完璧かどうかはわからないけど、亡くなった姉によく日本語はとても多様な言葉だから、その中で綺麗な言葉を選んで使うことを心がけましょうねって言われてたから。
錆兎は完ぺきな男だからその横に立とうと思ったら容姿だけじゃなくて姿勢や所作、それに言葉の美しさも追及しないとだし…」
「うあ…なんかそこいらのブランド品振りまわしてる女よりよっぽど意識高いですね…」

目をまんまるくして言う禰豆子がおかしくて、宇髄は小さく笑った。

竈門家は炭治郎もだが親の躾が厳しいのか挨拶もきちっとしているし目上には敬語を欠かさない今どき珍しく礼儀正しいお子さん達だが、こういうところは本当に年相応の女子中学生だなと思う。

そのうち話題はメイクの話へ。
男ではあまりついていけないその手の話題も、時折甘い物巡りをする時に女の格好で錆兎に同行する義勇は抜かりなく勉強しているので詳しい。
もちろん彼女達に色々聞いているためその情報元になっている宇髄もだ。

「うっそ~!すごく楽しいっ!
うちのお兄ちゃんはこんな話一緒にしてくれないからっ」
と心底楽しそうな禰豆子に

「なんなら…今度錆兎と出かける時に禰豆子も一緒に行く?」
と義勇が聞いてやると
「え?え?いいんですかっ?!邪魔じゃないです?!」
と目を輝かせて身を乗り出している。

「うん。甘い物の食べ歩きだけど、その時に女装ついでに色々プチプラを見て回ったりもするから。
一緒に色々見て回ったら楽しいと思う」
「ぜひぜひっ!!」

自分は長女だからそういう相談に乗ってくれる姉が欲しかった!と、嬉しそうな禰豆子に、おそらく自分が末っ子なので頼られるのが楽しいらしい義勇。
WinWinで結構な事だと思う。

そんな風に和やかに話しているとメイドがアイスコーヒーのグラスとアイスティのグラスを二つおいてまた礼をして下がって行った。

グラスにつく雫がどこか涼し気で、しかしそれが喉の渇きを意識させる。
宇髄はマドラーで乱暴に褐色の液体をかき回してカラカラと言う氷の音を楽しんだあと、添えられているストローを完全スルーでグラスに直接口をつけて少し酸味の強い種類のコーヒーを一気に飲み干した。

そんな彼に構うことなく義勇も禰豆子も談笑しながらこちらはマドラーをスルーでストローでアイスティーをかき混ぜながら飲んでいる。

──…なんか…高級茶葉の味がする?
と、よくわけがわからない感想を述べる禰豆子に、
──たぶんニルギリだなっ
と、ドヤ顔で宇髄に答えを求める視線を送る義勇。

──ああ、まあニルギリだが…
とあまりに楽し気な義勇に宇髄が頷いて見せると、
──やっぱりっ!
と嬉しそうに言う義勇。

それに禰豆子が
──義勇さん、すごいっ!茶葉の違いもわかるんですかっ!!
と驚いて見せた。

すると義勇はさらにドヤ顔。

──アイスティにはニルギリが多いって錆兎が言ってたからっ!
との言葉になるほど、そこからの知識か…と宇髄は苦笑。

──その理由は聞いてるか?
と聞いてやると、義勇は

──そこまでは…。アールグレイは香りでわかるし、ニルギリじゃなければディンブラが多いって言うことだけ…
と、きょとんとした顔で首を横に振った。

「アイスティーにするならクセがなくストレートティーに向いている茶葉がいいってやつが多いんだよ。
あっさり飲みてえだろ?
で、それに当てはまんのがそのあたりな?」

と、宇髄が言うと、禰豆子が
──ちょっと待ってっ!!それメモりますっ!!!
と、なんだか必死な形相でメモを取り始める。

あまりに真剣な顔でメモしているので宇髄も
「いや、これは一般論な?
でも好きな茶葉で飲めばいいんだぜ?
美味い不味いに正解なんてねえからな。
ただ今日みたいに相手の好みがわからねえ場合はそのあたりを出しておいた方が無難だってことでこのチョイスだっただけで…」
とそれにそう付け加える。

禰豆子はそれにもやはり真剣な顔で頷きつつ
「それはそうなんですけど、それを言って受け入れられるのは基本的な知識があることが前提で、ないままに言ったらただの物知らずの強がりですよね?」
と言った。

その禰豆子の言葉に宇髄は正直驚いた。
これは基本能力は低くないが素直で単純な兄よりもずっと賢いのかもしれない。
少なくとも女子中学生としてはかなり聡い。

「お前…綺麗な顔してるだけじゃなくて頭も良いなぁ…」
と思わず本音を漏らしたのだが、禰豆子はそれをからかわれたと思ったらしい。

「私、真剣に話してるんですけどっ」
と、ぷくりと頬を膨らませる。

「俺も本音を話しただけなんだが…」
と言いつつも、それを信じさせるのは宇髄には難しい。

これが炭治郎や錆兎なら裏はないと言えば信じてもらえるのだろうが、宇髄は裏がなくともあるように思われることが多いのだ。

「とりあえず…そろそろ錆兎の用事も終わっているかもしれないから、館に戻らないか?
……着物だから暑い……」
と、そこで義勇がタイムリーに空気を変えてくれる。

まあ本人はそんな気はさらさらなくて、単に早く錆兎に会いたいのと、本人が言うようにきっちり着物を着こんで炎天下は暑いのだろうが…。

「あ~、そうだな。
パラソルの下って言っても暑いには暑いし義勇が日射病にでもなったら会長様に殺されるからな」
と、宇髄もそう言って話を強引に切り上げると立ち上がって義勇に手を貸して立たせる。

禰豆子も多少話し足りないようではあるが、義勇が日射病になったら大変だとそれは同じく思うらしく大人しく立ち上がった。

そうして3人揃って屋敷に向かって歩き始めた時だった。

キラリと何か反射した気がした。
日差しとは違う何か…。

それが何かを確認する前に、護身術を叩き込まれた宇髄は反射的に義勇と禰豆子を引き寄せてかばう。

二人が歩いていたあたりに落ちてくる透明なソレは地面に落ちるとどこか澄んだような音を立てて砕け散った。

──……え??
と、そこで初めて何かが落ちてきたことに気づく二人。

そのまま二人をかばう体制を取りながらも宇髄はソレが落ちてきた屋敷の2階を見上げるが強い日差しに遮られてよく見えない。
そこでもう視覚での追及は諦めて守るべき者の保護に切り替えて、

──二人とも、ちゃっちゃと戻るぞっ!
と、急げないであろう義勇は有無を言わさず抱きかかえ、禰豆子は何かあればかばえるような立ち位置で、宇髄は屋敷内に急ぐよう促した。








4 件のコメント :

  1. 誤記かな?という気がする部分があるので「アイスコーヒーのグラスを二つおいて」宇髄さんがアイスコーヒーで義勇さんと禰豆子ちゃんがアイスティーだったから「アイスコーヒーとアイスティー2つ」の抜けかもしれないのでご確認ください<(_ _)>

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    1. ご指摘ありがとうございます。
      修正しました😄

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    2. よく考えたらオリジナルでは藤さんと殿下の2人だったからアイスコーヒー2つだったんですよね...^^;うっかり忘れてました💦

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    3. ですです。そこを修正し忘れてました😅💦

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