人魚島殺人事件_12_モデル組

一方…採寸組。

「なんか落ち着かないな…。
俺がモデル役で本当に良いのか?」
と、サイズを測られ生地を当てられながら困った顔で言う錆兎。

それに
「校外にファンクラブまである奴がなあに言ってんだかっ!
この世界の至宝レベルの俺と張るイケメンなんてお前くらいだろっ!」
と同じくサイズを測られながら言う宇髄に、自分は宇髄が採寸でバレないようにと予め実物大のマネキンを用意しておいてくれたおかげでのんびりと錆兎達の採寸風景を眺めていた義勇が
「宇髄はわかっているっ!
確かに錆兎のカッコよさは世界の至宝だ」
と大きく頷いた。

「確かに…宇随さんと錆兎さん、二人とも芸能人も真っ青なイケメンっぷりでこうやって揃ってみると壮観ですもんね」
と、義勇だけでは怪しまれてもなんなので、ついでにマネキンを用意されているため見物組の禰豆子もそれに同意する。

そしてさらに
「そもそも錆兎さんが降りたら義勇さんか私のどちらかがあの古手川さんと撮らないといけなくなりますし…」
と、一言。

「…それは嫌だな。
というか錆兎が降りるなら私も降りる」
と禰豆子の言葉に義勇も微妙な表情で言った。

まあ義勇が人見知りと言うのもあるが、あの古手川の傍若無人ぷりを考えれば自分ならなんとか色々を交わして付き合うことはできても確かに義勇には無理だなとは錆兎も思う。


あとはなんというか…嫌な感じがする。
何が?と言われると困るのだが、何か起こりそうな予感…。
それを感じるから義勇を一人にしたくなくて先ほどの部屋を同室にしたいという話になったのだ。

まあ…なんとなく…なんとなくだが、なんのかんので非常にわかりやすく問題を起こす古手川は無害だと思う。
本当に深刻な事態を引き起こす人間はえてして問題を引き起こしそうに見えないことが多い。
だから嫌な感じの元になっている誰だかわからない相手を警戒しなければと思うと、義勇は常に自分の傍に置いておきたいのだ。

そんなことを考えていると、宇髄が錆兎が何か思うところがあって考え込んでいることに気づいたようだ。

「…会長様、なんか気になることがあるのか?」
と聞いてくる。
それに錆兎は苦笑した。

「すごく不本意なんだが…色々経験しすぎてな。
何か起こりそうな時というのが感知できてしまう体質になってきたらしい」
「…今回もか?」
「どの程度と言うのはわからないが、なんというか……全体的に色々渦巻きすぎてて…皆が誰かしらに悪意を持って、悪意の連鎖がグルグルして空気が澱んでる…そんな感じがする」

「なかなか…不吉な発言だな」
と宇髄は錆兎のその言葉に少し眉をよせた。

「禰豆子と…義勇はそれぞれ極力一人で行動するのは避けた方がいいな。
まあ…あとは炭治郎はなんのかんので大丈夫そうだが、善逸は危ねえから保護組だな」
宇髄の言葉に錆兎も同意する。


4人が待合室がわりの部屋でそんな話をしていると、デザイン画を見て誰に何を着せるかを検討し終えたらしき綾瀬がそれぞれを呼ぶ。
義勇と禰豆子は一緒に採寸室に入り衣装の検討。
錆兎と宇髄も別室で同じくだ。

「これだけの美形揃いだと服もきっと映えるだろうし、嬉しいわ~」
喜々として女性陣の相手をするのは綾瀬瑞希。
服飾デザイナーだ。

「二人のタイプが違うのも服作る方としてはありがたいわね。それに馬鹿様が連れて来たモデルさん達、あの子達も丁度水野さんは体格が華奢で禰豆子ちゃんに似てるし、淡路さんや斉藤さんはスラっとモデル体系で冨岡さんに似てるから、構図撮ったりとかする時に使えるんじゃないかな」

馬鹿様とも一線置いている綾瀬は冷静なだけじゃなくてそれなりに空気を大切にするタイプらしい。
さりげなく古手川が連れて来た3人娘にも気遣いを見せるあたりが、なかなか好感が持てる。

しかしそこで禰豆子が
「じゃあ…何枚かはあの人達で撮ったりとかダメなんです?」
とお伺いをたてると、それにははっきり
「う~ん、私もね、”自分の作品”として発表するならベストな状態の物を撮ってもらいたいんだ。
だから、やっぱり本番は禰豆子ちゃんと冨岡さんで行きたいかな」
とやんわり拒絶した。
空気は大切にしながらも、そこは譲れない一線らしい。

一方男性陣の部屋。
柔らかい雰囲気の綾瀬とは逆に淡々と衣装の説明をしつつ着る人間を決めていく平井。

「こんなもんかな」
と、一通り決め終わると
「君達に一つ忠告」
とニコリと口元だけで微笑んだ。

「一応ね…ヘルプさんだから皆丁重にもてなすとは思うんだけど、あくまで”撮影”だからね。
空気というのもあるし、監督はたててあげてね?
古手川さんは気難しい上に気分屋なところがあるから何度も撮り直ししたくないでしょ?暑いし」

(大人の都合…だな)
と錆兎は何度も苦渋を舐めさせられて来たその曖昧にして不可解な、しかしおそらく必要な理屈に、内心苦笑しするが、誰もが感情のままかき回している人間関係の中で冷静な平井の忠告に感心しつつも納得する。

そして
「はい、どちらにしても年長者ですので、尊重はするつもりです。
ご忠告ありがとうございます」
と、しごく真面目に平井にそう礼を言った。
その錆兎の態度に平井は少し目を見開いて、次の瞬間にっこりする。

「エリートなのに意外に腰が低くて礼儀正しいのね、鱗滝君。安心した。
ああは言ったけど、私とかは裏方だからね、要望とかこうして欲しいとかは遠慮なく言ってね」

特に権力主義とかではなく、おそらく撮影を円滑にしたいだけらしい平井に、錆兎は少し好感を持った。

「頭の良い女だな」
宇髄も同じ事を考えていたらしい。
採寸が終わって平井が退室すると、着替えをしながらそう口にした。

が、その後に続く言葉が
「ああいう女が一番油断ならない」
というのが皮肉屋の宇髄らしい。

「お前の理屈でいうと…世の中は馬鹿か油断ならないかどちらかの人種しかいない事になるな」
錆兎は言って苦笑すると、採寸室のドアを開けて外へと出た。

女性陣の方は若干時間がかかっていた。
いや、正確には必要な説明の時間におしゃべりの時間が加算されていたというのが正しいだろう。
”人魚姫”をモチーフにした服というのは禰豆子の興味をひいたらしく、また、綾瀬の方も自分の服に興味を持つ人間を邪険にするほど冷めた人間ではなかった。

楽しげに服のイメージについて説明する綾瀬と楽しげにそれに聞き入る禰豆子。
義勇はそういう話題について全くと言っていいほど興味がないというわけではないのだが、錆兎と早く合流したいなぁ…と、そちらの気持ちの方が優先で、錆兎が迎えに来るのをそわそわと待っている。

そこに
「失礼、まだだいぶかかりそうですか?」
あまりに遅いのでドアをノックしつつそう聞いてくる錆兎の言葉で義勇が部屋から飛び出した。

「いや、説明は終わったからっ!」
と、嬉しそうに錆兎の腕の中に飛び込む義勇に
「あ~仲いいねぇ。
じゃ、やっぱりあれかな。
組み合わせは鱗滝君と冨岡さん、宇髄君と禰豆子ちゃんになるかな」
と、微笑まし気に笑いながら言う綾瀬。

「錆兎、せっかくだから散歩にでも出よう」
と、うきうきと言う義勇に腕を引っ張られて
「それじゃあ俺達はいったんこれで…」
と反転しかけた錆兎だが、そこで綾瀬からストップがかかる。

「ごめんねっ、義勇ちゃんと組むほうの男性モデル、少し衣装合わせてみたいのがあるから、鱗滝君、ほんのちょっとだけ時間もらえる?」

そう言われればモデルのヘルプに来たのだから否とは言えない。
了承する錆兎と目に見えてがっかりする義勇。

あまりに肩を落とす義勇に
「じゃ、俺も付き合うから中庭のテラスでジュースでも飲みながら錆兎待ってようぜ。
禰豆子もどうだ?」
と宇髄が苦笑まじりに手を差し出した。




0 件のコメント :

コメントを投稿