人魚島殺人事件_10_馬鹿様の野望

「…政財界の…重鎮……」
と、その言葉に錆兎を見る古手川の視線が変わる。

「…今も色々伝手が?」
ごくりと息を飲んで聞く古手川に宇髄が当たり前に
「まあ会長様の一声で日本の大企業の何社かは動くんじゃねえか?
少なくとも宇髄財閥の総帥のうちの爺さんは会長様の信奉者で、俺より会長様の言葉を優先するぜ?」
と言って肩をすくめた。

「そ、そうかっ。さすが海陽の会長様だなっ!
そんな方にモデルとして参加して頂けるなんて皆感謝しなければっ!!」
と、コロっと態度の変わる古手川に呆れつつも、そこはまだ根に持っているらしい禰豆子が

──たいした人脈もないと言われた一般ピープルの私の伝手ですけどねっ!
と喧嘩を吹っかけそうになって炭治郎に慌てて口をふさがれる。

もちろん古手川もその発言はまずかったと思ったのだろう。

──そちらのお美しい令嬢は…会長様のお連れ様で?
と慌てて話題を変えに来た。

──ああ。禰豆子に女性側のモデルも頼まれたから…
と錆兎がちらりと隣の義勇を見下ろす。

──なるほどっ!!さすが会長様っ!俺もこんな美しい女性は初めて見ましたっ!
と揉み手をせんばかりの古手川。

まあ彼の手の平の返し方はどうかと思うが、その言葉に異論はないな…とその場に居る皆が思っている。

会長様の隣に寄り添うその人は綺麗なだけじゃなく上品で会長様と同じくまとう空気が違う。
そもそもがこんな風に美しく着物を着こなしている時点で一般人には見えない。
雪のように…と言う言葉がぴったりくるようなどこか透明感のある真っ白な肌。
つややかな漆黒の髪を飾る見事な月下美人を模したかんざし。
不思議な色を放つ大きく澄んだ青い瞳も美しく、それを縁どるまつげは驚くほど長い。
まるで熟練の職人がこれ以上なく丹精込めて作り上げた日本人形のようで、普通に自分たちと同じ空間で呼吸をしているのが不思議なくらいだ。

「…ってわけでな、鱗滝錆兎元会長様とその恋人の冨岡義勇な。
すげえ多忙なところ無理して来てもらってるから丁重にな」
声も出ない一同に向かって宇髄がそう紹介する。

それで我に返った綾瀬が
「すごいわっ!これ絶対いい!すぐ採寸にかかろう!」
と興奮気味に身を乗り出す。

ついでに綾瀬は古手川の方を見てきっぱり
「ということで…モデルは男性は宇髄君と会長様を使いますのでっ。
監督にはご心配おかけしましたが、監督は監督業に専念して下さいねっ」
と、宣言した。

古手川はその言われ方に嫌~な顔をしたが、まさにグウの音も出ない。

そのイライラした気持ちをぶつけるように
「じゃあ女性も冨岡さんと竈門禰豆子でっ。他3人は要らん!帰れっ!」
と、古手川は自分が連れて来たモデル3人娘に言い放った。

その言葉に息を飲む3人。
水野と淡路は少し涙目になって寄り添い、斉藤はキッと禰豆子と義勇を交互ににらみつける。
錆兎がそれに気付いて義勇を少し自分の後ろにかばうように押しやった。

「まあ…女物は多いわけだし二人に限らないでもいいんじゃないか?」
険悪になる空気を取り持つように高井が口をひらいて取りなそうとするが、それもまた古手川に
「高井!誰に向かって物言ってるんだ!!監督の俺が言うんだ!決定事項だっ!!」
と、黙らされた。
斉藤がクルリと反転して部屋を駆け出して行く。

「帰れって…自分で頼んで連れて来ておいてそれはないんじゃね?
そもそも…島なんだから帰れるわけないだろっ。
ま、”監督様”が要らないっていうなら、もう義理立てする事ないからな、水野さんも淡路さんも。
俺のゲストって事でゆっくり過ごしていってくれや」

ジロリと古手川に呆れた視線を向けたあと、宇髄はにこやかに残った二人に声をかけた。
まだ涙目で、それでも少しホッとしたような二人だが、空気は相変わらず微妙だ。

「とりあえず…俺は会長様達を部屋に案内してくるから、斉藤さんに会った人、そう伝えておいてくれ」
宇髄はそう言って2人を私室の連なる2階へとうながした。







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