人魚島殺人事件_08_不穏な始まり

ともあれ島に着くとまず、
「さすが海陽の宇髄君の別荘だな。城上大なんかの人間じゃこうはいかない」
と、別荘側面にある船着き場につけた船から荷物も持たずに駆け下りる馬鹿様こと古手川宗佑。

うわぁ…いちいち無駄に争いの種を作る人だなぁ…と、それを聞いて善逸は苦笑いを浮かべる。

一方でこちらは隠すつもりがないらしい。

「別に別荘と大学関係ないじゃない。城上大と尚英大なんて対して変わんないでしょ」
ムッとした遥達がそれに言い返す。

「いやっ!偏差値が全然違うぞ!
頭がいいという事はだ、最終的に就ける職業、達成出来る仕事の質もおのずから…」

「あ~、もう尚英なんて政経だけだろ、そういう意味で差があるのは。
あとは50歩100歩だって」
と、それにムキになって主張する古手川の言葉を成田が面倒くさげに否定した。

そんな成田に
──馬鹿は相手にせん主義だっ!
などと言いながら、しかし
──まさか宇髄財閥の総帥のお孫様とご一緒出来るなんてっ!
と宇髄の前だといきなり声音が変わる古手川。


宇髄はそれを軽くあしらい、禰豆子の先輩である遥は

──二流大学の私の伝手で来てもらった禰豆子ちゃんの伝手だけどねぇ~

とそれを鼻で笑い、禰豆子も禰豆子で

──宇髄さんだけじゃなくて日本一賢い学校の首席も招待してますしっ…一般ピープルの私の伝手ですがっ

と、先輩だけではなく兄を落とされたことも根に持っているらしく、いつになく好戦的だ。


それをコラコラとたしなめる炭治郎と

──たまたま知り合いだっただけでしょっ。自分がすごいわけでもないのに虎の威を借りる狐よねっ。

と、応戦する古手川の取り巻きの女子大生達。

他のスタッフの大学生は自分達には関係ないとばかりに互いの知り合いで固まって談笑していて、当事者の側で呼ばれた善逸はオロオロと頭を抱えて涙目である。


──だいたい城上大程度の大学じゃあ海陽のエリートの宇髄さんと直接の知合いになんてなれるはずないもんねぇ

と続く古手川の取り巻き、斎藤亜美の言葉。


派手なオレンジのジャケットを着ていて、顔立ちも派手なのでよく似合ってはいるが、他の二人が割合と大人しめな出で立ちなので、一番攻撃的な印象を受ける。


──宇髄さんは普通の都立高の高校生の兄や善逸さんの友人の友人ですけどっ!

と、それに応戦する禰豆子。


──じゃあその友人がモノ好きなんじゃない?

と続く言葉に、それまで色々スルーしていた宇髄が初めて会話に入ってきた。


「まあ…俺は善逸も炭治郎も面白い奴だと思うぜ?
俺ら海陽生からしたら城上大と尚英大なんて対して変わんないしな?
それより…今話に出た”友人”をおとしたら人生終わるぜ?」

「…え?でも…偏差値が全然違うから…就ける職業も…」
と、またさきほどの古手川の言葉を繰り返そうとする斎藤に

「あ~…就ける職業って言うなら、その友人はまだ高校生の今から日本どころか世界の政財界の重鎮から引っぱり凧な逸材だからな。
なにせ…俺達の敬愛する海陽学園の元生徒会長様だ。
奴がくだらなくねえって判断した相手をくだらねえって言い切るなら俺もキレるわ」

と、冗談のような笑い混じりの口調で…しかし笑ってない目でそう言ってのまま先に立って歩き始める宇髄。

それにどうやら自分の取り巻きが御曹司の機嫌を損ねてしまったらしいと慌てる古手川。

そんな斉藤を突き飛ばすと
「宇髄君を怒らせるな!この馬鹿!」
と怒鳴って、
「待ってくれ、宇髄く~ん!」
と、先に行く宇髄を走っておいかけた。


「必死だね…」
それを見てプっと笑う遥。
その横には禰豆子。

「まあ…あの程度の男じゃ錆兎さんを見たらグウの音も出ませんよねっ」
と、ドヤ顔だ。

「ふ~ん。宇髄君並みの美形なら余裕でモデルとして使えるね。
古手川先生、もう自分がやる気満々でモデルできそうな男全部返しちゃったけど、監督がモデルって無理すぎだし」
その横をスケッチブックを大事そうに抱えたデザイナーの綾瀬瑞希がつぶやいて通り過ぎ、
「という事だから…縫製頑張ってね」
と、スタイリストの平井真美もそれに続く。

家政大コンビは専門が違うため大学論争からは一歩引いて平静である。


「監督…ちょっと我が儘で気難しいところあるから、失礼な事言ってごめんな。
気にしないでくれ」

最後に古手川の分の荷物まで抱えた高井が降りてきて、わざわざ遥達の前でいったん荷物を置いてぺこりとお辞儀をすると、また荷物を抱えて走り出して行った。


「良い人だね、彼。なんであの馬鹿様にお仕えしてるの?」

馬鹿様、モデル娘3人組と、つっかかる連中に混じって妙に腰の低い高井を見送る遥に、同じくそれを見送っている成田が答える。

「あ~、高井はね、古手川の親父の小説家古手川宗英の担当の編集者の息子なんだよ。
だから親の立場的強弱をそのまま子供にも持ち込まれちゃってるけど、あいつは尚英でも政経だから、学生としては相手の方が能力上なんだけどな」

今回の話は元々は古手川が発案者だ。
成田は元々は高井と高校の頃に塾が一緒で高井つながりで今回参加する事になり、家政大コンビは平井が古手川の知り合いらしい。

「交友関係まで親の七光りか~。さすが”馬鹿様”の名に恥じないな」

そこで別所が肩をすくめて、遥と自分の荷物を持って歩き始めた。
成田と遥もそれを追う。

「ま、その馬鹿様もさ、親に”七光り”でしか物作れないなら普通の職につけって言われてるらしくてさ、噂では宇髄君に近づいて宇髄家の援助受けたいらしいってことだぜ」
成田の言葉に遥は目を吊り上げた。

「ばっかじゃないの!何それ?!」

そんな憤る遥を別所がまあまあとなだめる。

「宇髄君の方は相手にしてないみたいだし、放置でっ。
それじゃなくても年齢も学校も違うしさ、目の覚める様な美貌…だけならとにかく、それに頭脳明晰スポーツ万能、大金持ちの跡取りまで来るとご学友だって選ぶだろうよ」

まあ…確かにその通りだ。
そんなすごい人物が自分のような平凡な都立高のフツメンと気軽に付き合ってくれているのは考えてみれば不思議だしすごいことだよな…と善逸は改めて思う。

もっとも近寄ってみれば、意外に気取らない気の良い人間だとわかるのだが…。


ともあれそんな不穏な空気を発しながら一同はそれぞれ宇髄家の使用人に案内をされて部屋に落ち着いた。






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