そしてさらにその夜の竈門家。
「禰豆子っ!
兄ちゃん、ダメだって言ったのに、また善逸から手を回しただろっ!!」
怒っている。
予想は当然するべきだったのだが、前回もなんのかんので流されてくれたから今回も…と、正直舐めていた。
しかし長年一緒に育った兄妹の仲だけに、今回は兄が本気で怒っているのがわかってしまって禰豆子も焦る。
明るく真っすぐな性格で誰とでも打ち解けることが出来るため友人も多い兄だったが、そんな中でも善逸と錆兎それに義勇は兄にとって何故だかはわからないが何か特別な想いのある相手らしいというのは日々感じていた。
そんな特別な友人達を無関係な争いに巻き込んだことに、兄はこれ以上なく怒っている。
前回は大丈夫だったから今回も…ではなく、前回は大丈夫だったが今回は…ととらえておくべきだったのだと悟って、禰豆子は今更ながら青ざめた。
しかも前回と違って今回は相手も受験生で大切な時期だから、と、兄からダメな理由もはっきり説明されていての強行である。
よくよく考えてみれば激怒しないのがおかしい。
ここに至って禰豆子はようやくさすがにまずい事をしたと悟った。
「えと…ね、善逸さんがきいてみてくれるって言ったから…」
「他人のせいにするなっ!」
「あ、そだ。宇髄さんもね、来てくれるだけじゃなくてすごく素敵な別荘を貸してくれるらしいの。
お兄ちゃんも一緒に遊びにくれば?」
「ごまかすなっ!」
ああ…真面目にやばい。本気で怒っている。
そこでタイムリーにも夕食が出来たらしく母親が呼びにくる。
「は~い♪今日のご飯なにかな~」
そそくさと禰豆子は激怒している炭治郎の横をすり抜けた。
夕食の間もずっと自分をにらみつけている兄。
これはさすがにまずい…と、禰豆子は考えをめぐらせた。
なだめてもらえそうな相手は…と考えるが、錆兎当人には禰豆子が直接頼めるほど親しくない。
とすると…だ…もうあとは一人しか…
「ごちそうさまっ!」
と、もう食事をそこそこに立ち上がって、何か言われる間も作らず猛ダッシュでスマホだけ抱えて外へ。
そしてかける場所は一カ所である。
かくして…
「もしもし、善逸さん?禰豆子です」
と、当たり前に善逸に電話をかけた。
もう思い切り巻き込み過ぎて申し訳ない気持ちはあるが背に腹は代えられない。
事情を話すとちょっと戸惑ったような善逸。
「う~ん…炭治郎はダメって言ってたのかぁ…
そうすると俺が言っても火に油を注ぐだけな気がするよね…
どうしようかなぁ…」
と悩む善逸に泣きそうになる禰豆子。
しかし電話の向こうでその気配を察したらしい。
「うん、でも大丈夫っ!
なんとかするよっ。何とか出来るから禰豆子ちゃんは気にしないでいいよっ」
と、それでもそう言ってくれる善逸の優しさにはもう感謝の気持ちしかない。
「とりあえず錆兎から炭治郎に禰豆子ちゃんを怒らないように言ってもらうから…」
と言う善逸に禰豆子は
「そんなこと可能?」
と少し不安げに言うが、善逸は
「大丈夫っ!任せてっ!」
と、自信ありげに請け負った。
かくして…善逸は一番確実な方法を選択する。
そう、将を射んとする者はまず馬を射よということわざがある。
つまり…錆兎を動かすなら義勇に言え、と、まあそう考えたわけだ。
そして…話は善逸から義勇、義勇から錆兎へ。
義勇は”仲良しのお友達”の一人である善逸の願いを叶えてあげる気満々で…錆兎がそんな義勇に逆らえるなんてことは天と地がひっくりかえってもありえないわけで…グルリと一周して錆兎から炭治郎に電話がある。
そして第一声。
『炭治郎…頼むから禰豆子に怒るのやめてくれ。俺が義勇から怒られるから…』
(あの…卑怯もの~!)
と思うものの、当の本人からそう言われるともう仕方ない。
というか、余計に迷惑をかけることになる。
「ごめん…ホントにごめん。俺も行く。なるべく迷惑かけさせないようにするから…」
本当に本気で禰豆子を甘やかしすぎたかもしれない…と軽い目眩を感じながら炭治郎は錆兎に平謝りに謝った。
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