──お~、善逸かぁ。久しぶりだな、どうしたよ?
錆兎も頼れる感満載だが彼の場合は少しばかり厳しいところもあって多少の緊張も伴う。
その点、宇髄は錆兎よりもずっと気さくな性格で気楽に声をかけることが出来る。
そう言うとそれなら明日にでもちょっと付き合えやと言われて放課後に会う約束を取り付ける。
電話でも良かったのだが頼み言が頼み事だけに会って顔を見て話す方がありがたい。
善逸も大概人の感情の機微に敏い方だが宇髄のそれは生来のものに加えてお育ちもあって善逸をはるかに超えていた。
だからあえて向こうから言い出してくれたのだろうと善逸は心ひそかに感謝する。
そうして翌日の放課後、善逸の通う極々一般的な都立高校にぴっかぴかの黒塗りの車が横付け。
ピシッと背広を着たどこかおっかなそうな運転手に善逸を呼んできてくれるように頼まれたクラスメートが
──我妻…お前、何やらかしたんだ??
と、青ざめた顔で善逸に声をかけてきた。
まあ善逸だって宇髄と事前に約束をしていなければ、何かやばい界隈の人に目をつけられたのかも…と怯えたかもしれないが、そこは宇髄の身元は知っているので苦笑交じりにごまかしながら、急いで荷物を抱えて正門横まで走る。
そうして善逸が車に駈け寄ると、当たり前に後部座席のドアを開ける運転手。
その中ではエリート丸出しの海陽学園の制服である燕尾服を来た目の覚めるようなイケメン…宇髄が待っていて、
──よぉ、久しぶりっ!
なんて言いながら手を振るものだから、何事かと遠巻きに見ていた女生徒たちの黄色い悲鳴があがったり、奇異なものでも見る目をそちらに向ける男子生徒たちが集ったりと、明日は色々聞かれて大騒ぎかもしれない…と思うほどには悪目立ちをしてしまった。
まあそれも仕方がない。
なにしろ善逸はこれから一方的に図々しいお願いをする立場なのだ。
──待たせてごめんね。
と、へらりと笑いながら、促されるままにどう見ても自分には不似合いに思われる高級車に身を滑り込ませた。
──今日はどこに行くの?話はついてからの方がいい?
あれからたまに錆兎を始めとする海陽学園生徒会役員の皆様に混じって宇髄財閥の経営する様々な店の食べ歩き会に同行させてもらうことがあったので、善逸もさすがに慣れてきてそう聞くと、宇髄は、そうだなぁ…と少し考えたあとに、
──ま、つくまで少しばかり時間があるから話始めてもいいぜ?
と言った。
そこで善逸は禰豆子から聞いた現状の説明と女性モデルを一人紹介してもらいたい旨を話す。
そう多くはないが善逸が知っていること全てを話し終えると、宇髄は当たり前に
「あ~、そういうことならプロでも素人でもとびきりの美女を紹介できなくはねえんだが……」
と言ったあとに、少し考え込んだ。
まあ宇髄ならそのくらいの人脈はあるとは思ったし、あるなら使ってくれるとも思っていたのだが、言葉の語尾が濁ったことが気になる。
そこで
「…ごめん、やっぱりただでそんなお願い図々しい?」
と善逸が不安になって言うと、宇髄は首を横に振りながら苦笑した。
「あ~、そういう意味じゃねえよ。
金なんざ気にすんな。
プロでも俺が声をかけりゃあタダでも良いからって寄ってくるだろうが、タダがまずけりゃそのくらいのはした金は出してやる。
そうじゃなくてな。
炭治郎のとこの嬢ちゃんは相手を完膚なきまでにやりこめてえわけなんだろ?
そんならただの美女じゃあ面白くねえよな。
どうせなら…その監督とやらの節穴っぷりを最終的に嘲笑してやるくらいのことをしねえとと思ってな」
そう言う宇髄はものすごく悪い笑顔で、善逸はビビってしまった。
そんな善逸の様子に構わず宇髄は言う。
「おし、決めたっ!
男のモデルの一人はこの宇髄天元様が参戦してやんよ。
でもって…もう一人のリクエストの会長様の説得もしてやる」
いきなりの宣言に宇髄の真意をつかみ損ねて首をかしげる善逸。
何故宇髄が?
錆兎と義勇じゃなく錆兎だけ?
…というか、女性モデルは?
そんな善逸の疑問は口にするまでもなくわかっているらしい宇髄。
にやりといたずらっぽく笑うと
「男は俺と会長様。
んでもって…だ、女のモデルはミス海陽…海陽学園生徒会の姫さんを担ぎ出してやる。
ネタばらしは撮影が全部終わってからで」
と言う。
なんだかとても嫌な予感……
──えっと…その姫さんって……
──おう、義勇だっ!
──マジィィ~~~?!!!
思い返せば最初に宇髄と出会った日、錆兎と二人で出かける予定だった義勇は何故か女装をしていたのだが、確かに顔を知っているはずの善逸ですら気づかないレベルでの絶世の美少女だった。
正直、長い人生の中で善逸は芸能人を含めてあれを超える美少女に会ったことはない。
禰豆子だってそこいらのアイドル顔負けの美少女だと思うが、女装した義勇はもうそういうレベルではなく次元の違う美少女だ。
確かに人脈をバカにした監督役の大学生も土下座して恐れ入るかもしれないが……
──義勇ちゃんに…女装しろって言える?
と、おそるおそる言えば、宇髄は
──説得はまかせろっ!
と、胸を叩く。
「どうせなら完封勝利を目指そうぜっ!
義勇を使えば、映像志望のくせに男だって見抜けなかった監督の馬鹿様の節穴っぷりも笑ってやれるし、そいつの女が男の義勇以下ってことでそいつの人脈の程度も鼻で笑ってやれるだろっ」
もう止めても止まらない。
宇髄はどう見ても楽しんでいるようだ。
そして
「そうだっ!
どうせなら完璧を目指すべく、俺がまるごと所有してる島を貸してやるよっ!
それでシチュエーションもばっちりだろっ。
楽しい夏休みになりそうだなっ!」
などと言い出した。
禰豆子は確かに喜びそうだが、あまりにおおごとになりすぎて善逸はもしかして相談相手を間違ったのでは?と少し悩み始める。
だがもう話は引き返せないところまで進んでしまって、宇髄おススメの新装開店直前のイタリアンレストランでの食事は確かに美味しいはずなのだが緊張のあまりまるで味がしなかった。
身長からすると宇髄さんと義勇さんというカップリングがいいのでしょうが・・・
返信削除やっぱり正装の錆兎の隣にいてほしいです!
いや、そこはもう会長様の鶴の一声で断然錆義です😁
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