──じゃ、そういうことで行ってくる。
と、青銀のマントを羽織った錆兎が、金の揃いの手袋をした金狼の兵とメイド部隊に囲まれた花嫁を引き連れて陣地を後にする。
敬礼してそれを見送る炭治郎を始めとする銀狼寮の寮生。
さらに奥の部屋には金狼の寮長不死川と姫君の善逸、そして銀竜の姫君の無一郎が待機していた。
「…あれ、騙されるかな?」
と窓から錆兎達を見送りつつ誰にともなく呟く無一郎の言葉をしっかり拾って、不死川は
「まあ、奥の隠し部屋の義勇の所へ行くには俺を倒さねえとだからなァ!
騙されても騙されなくても、少なくとも銀狼の姫君の腕輪は守られるぜっ」
と、自分自身を指さして笑う。
それに、
「不死川さん…隠し部屋は隠してるから隠し部屋だからね?
口にするのはNGだから。
誰が聞いてるかわからないんだから気を付けようよ」
と、し~っと言うように人差し指を唇に当てて言う善逸に
「ああ、そうだな。わりい」
と素直に謝罪して黙る不死川。
「まあ…ここに敵方の寮生が攻めてくる時は、錆兎が連れてる花嫁が義勇じゃないってバレた時だから。
万が一があってもかなりの時間が稼げるんじゃないかな」
と、無一郎はそんな二人に苦笑した。
そう。
錆兎の連れている花嫁は姫君ではない。
フェイクだ。
銀狼は寮長が姫君も連れ歩いているならば、陣地に攻め入る意味はない。
そう思ってくれれば、こちらに敵が来る可能性が低くなるだろうという目論見だ。
銀竜が同盟の打診を受けた時の条件から予測をすると、敵方はおそらく3年組の寮が2寮で錆兎に対峙。
金竜は自寮を含めた自勢力側の3寮にそれぞれ兵を分散。
他寮が自軍側の寮に攻めてきたらその旨を金銀虎寮長軍と他2寮に報告。
寮長軍から割けるだけ割いて援軍を送るというものだと思う。
ただ、それは飽くまで金銀虎の寮長のたてた計画であって、金竜はしたたかな寮だ。
3年組の思う通りに動くとは限らない。
彼らにしてみれば、万が一自軍側の陣地に敵が攻め入ってきたとしても、自寮が失うのは自寮の姫君の分のブレスレット一つだけだ。
それなら一番面倒な銀狼の寮長を3年寮長達が抑えている間にそちらに一兵とも割いていない自寮の寮生達を使って他寮に攻め入って他寮の姫君のブレスレットを総取りしたほうがいいと考える可能性もあると無一郎は思って探ってみたら、やはりそういう計画でいるらしい。
一応同盟関係で銀竜からは得た情報の提供もその条件であったため、当然ながら仕入れた情報は錆兎と不死川にも伝えている。
(…っていうことだから…隠し部屋に残してるのは義勇じゃない可能性もあるよね…)
と、無一郎は敵を欺くにはまず味方から…とやられている可能性も考えてみるが、まあそれはそれで構わない。
少なくとも金狼の寮長、そして錆兎の弟弟子で銀狼のとても硬く頼もしい一枚の盾である炭治郎は隠し部屋に姫君がいるということを微塵も疑っていないようなのでこの陣地は死守してくれるだろうから、無一郎的には全く問題はない。
錆兎はたとえ勝利のために戦術を駆使したとしても約束したことは守る誠実な男だ。
だからその経過で多少の情報の差異があったとしても、結果が同じなら本当に問題はないので、そのあたりは追求せずに黙っておくことにした。
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