とりあえずあとは自軍陣地にたどり着いて一休みだ。
虎2寮は金竜に出し抜かれて姫君のブレスを奪われた上に錆兎に寮長のブレスまで差し出した時点で全ブレスレットを失って失格。
金狼と銀竜は同盟を裏切れない理由があるので、問題なし。
残るは金竜の寮長だが、金銀の虎の寮長に追われているとなれば攻城に時間をかけられないと言う認識はさすがにあるだろうし、銀狼寮に金狼寮の不死川が防衛に入っていると知った時点で、今持っている金虎寮の姫君のブレスと自分のブレスの2つをキープできるだけマシと、即逃げだろう。
ということで、錆兎と銀狼寮的にはもうイベントは終わったも同然だ。
元々は動揺して戦闘に集中できなくなった虎2寮の寮長をなんとか1人でかわして、虎寮の姫君のブレスを持ち逃げしつつ銀狼寮に向かうであろう金竜寮長を一旦スルー。
虎達の矛先が行くであろう金竜の姫君から丁重にブレスレットをお譲り頂いたあと、金竜の寮長を追って撃破…な予定だった。
だが、考えてみれば当たり前なのだが思っていたより遥かに自寮の姫君を大切に思っていたらしい虎寮の寮長達のおかげで、そのあたりずいぶんと省略された。
この計画の中で一番時間がかかる予定だった虎寮の2人の寮長との闘いがまずなくなって、ただで寮長達二人と銀虎姫君の3つのブレスと引き換えに金竜寮長戦を譲ったので金竜寮長を追う時間も必要なくなった。
もう計画通りだったのは金竜の姫君との交渉だけだが、これも姫君の方が寮長に腹を立てていて即ブレスを投げ捨ててくれたので、思いがけず短時間で終わる。
本当になにもかもが楽勝過ぎてあっけないくらいだ。
童磨に言った通り陣地に戻ってゆっくりしたいところなのだが、そう出来ない理由が錆兎にはある。
正確には不死川にあって、それが今回の金狼寮の全面協力の条件になっているといったところか…。
そう、今率いている金狼寮の寮生の中に善逸を暗殺しようと企む輩が紛れ込んでいるという事である。
飽くまで相手に気づかれないように…しかし、金狼の寮生は善逸のいる銀狼の陣地からは引き離しておかねばならない。
本来なら十分それが不自然ではないくらいの時間がかかる予定だったのだが、思いがけずイージーモードに進んでしまったので時間が余ってしまった。
なのでトロトロと歩いていると金狼の寮生から
「急いで戻らないんですか?」
と、当たり前の声が飛ぶ。
「ん~~~」
とそれに曖昧に返して少し悩んだ。
…本当はぎりぎり最後まで明かしたくないが…まあ、もう敵は金寮だけだし、それも村田が見張ってて宇髄達が殴り倒しに行ってるし、大丈夫かぁ…
と、星が綺麗な夜空をみあげながらそんなことを考え、そして宣言する。
──よしっ!ここいらで少し休憩だ。
──はああ????
錆兎の言葉に、率いている寮生がほぼ全員ぽか~んとして間の抜けた言葉を返した。
それはそうだろう。
危険が去ったとはいえ、普通なら一刻も早く陣地へ戻って姫君の無事を確認したいところだ。
そもそも休憩ってなんだ?
結局どことも一度も交戦していないのだから、休憩するほど疲れてはいないだろう。
と、実際はもう少し丁寧に金狼寮の寮生の1人が言ったのだが、それに錆兎は
──俺達はな…
と、笑みを返すと、黙って手招きをした。
するとメイド部隊からトテテっと一人のメイドが駆け寄って来て、ポスン!と錆兎の腕の中に収まる。
それを見て唖然としている金狼寮の学生達と、どこかホッとしたように胸をなでおろす銀狼寮の3人の寮生。
後者しか事情が分かっていないので、錆兎はそれを加味したうえで
──でも、ドレスで走り回ったお姫さんは疲れているだろう?
と、にこりと言うと、恭しくそのメイドのベールをあげて、その下から現れた白い額にそっと口づけた。
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