え?え?何故だっ??
錆兎は珍しく脳内パニックになって、しかしすぐ武器に手をやる。
それに苦笑して、宇髄がまず
「とりあえず今回は将軍とやり合う気はねえから、かかってくんなよ?」
と、両手をあげた。
「へ??」
と、本気で全く状況が飲み込めない錆兎に近づいてきた童磨が
「これ、あげる」
と、カラン…と虎寮の寮長二人分+1のブレスレットを差し出してくる。
「…え?どういう意味だ?」
と、それでもそれを受け取る錆兎。
さらに驚いたことに、殺気は少し離れた銀虎の宇髄より、普段は冷静な童磨から駄々洩れている。
「うん…将軍さ、これで自軍の二つと金竜の姫君のと、俺達二人+煉獄の分で6個のブレスレットをキープってことで、不死川と村田のとこ4つ抜かして残り9個の中で過半数だから優勝できるよね?」
と、相変わらず声音は柔らかいのにどこか恐ろしい童磨の言葉。
顔には確かに笑みを浮かべているのに、目が全然笑っていない。
さきほど錆兎が金竜の裏切りを告げた時は、驚いてはいたが怒っていたのはむしろ銀虎の宇髄の方だった。
それが逆転しているということは……
「…あ…察し。
俺はもう金竜を追わず陣地で籠ってるってことで?」
おそらく一応姫君とはいえとてつもなく強い銀虎の煉獄は金竜の寮長も返り討ちにできたようだが、プライドのとても高い金虎の姫君は裏切者に対して力がないのに無駄とは思いながらもなんらかの抵抗を試みたのだろう。
寮長として最後の年、確かに優勝を狙ってはいたが、彼らにとってもこれは戦略大会ではあるがそれよりなにより”姫君戦争”であることが大前提だったようだ。
それで御旗を踏みにじられれば、寮長としてその報復より優先することはないというのは納得だ。
というか、むしろ勝利に固執する寮長達の寮長最後の年の大イベントなのに、その前提を飽くまで忘れない姿勢に尊敬の念を抱く。
「…それとも…協力するか?
一応、金寮の寮長のことは別動隊に追わせてるけど…」
と、思わず言うと、
「将軍っ!!」
と、童磨にガシっと両肩を掴まれた。
「お、おう?」
「これまで色々標的にしてすまなかったよっ。
最後の年だったからね、どうしてもベスト姫君を狙いたかったんだけど、姫君を危険に晒して怪我をさせてまでなんて本末転倒、底辺以下だ。
もうあと半年もないけど、金虎は普通にイベントでの勝利は目指すことはしても、銀狼を特別に標的にしたりはしないと誓うよ」
まあ、このイベントで入賞できなければベスト姫君はもう狙えなくなったも同然だからというのもあるのだろうが、色々自分達で問題を抱えている金狼や銀竜をフォローしながらあと半年弱を頑張っていかねばならない錆兎としてはその申し出はとてもありがたい。
「あ~、それはすごく助かる。
じゃ、とりあえず今の位置確認するな?」
と、錆兎は村田に無線をいれた。
──首尾はうまくいった?
『あ~、色々あってな、詳しいことはあとで。
とりあえず金銀虎の寮長が自分達+銀虎の姫のブレスを自主的に提供してくれたから、これで金竜の姫君のと合わせてうちは優勝確定。
で、替わりに金竜寮長情報流したい。
金銀の虎寮はブレス2つとも失くしたってことで戦線離脱。
もう俺達をはめても意味はないし、純粋に姫君にされたことに対する報復で金竜を潰したいだけだから。
あれが野放しにされなくなれば、うちにとっても十分なメリットになる。
ということで…どのあたりにいる?』
──ちょうど銀狼の陣地の北西1㎞
『わかった。俺達は反対側から戻る。
お前は虎寮の寮長が金竜の寮長と交戦に入るまで今のまま気づかれないように見張っててくれ』
──了解!
「じゃあ俺達はもう叩く相手もいないし、万が一に備えて迎撃の体力温存ということで、反対側のルートから戻る。
念のため…そっちが交戦に入っても別動隊はその場で待機。
虎2寮の寮長が揃っていて金竜寮長一人に遅れも取らないだろうが、戦わずにブレス3個もらった恩くらいは返す気はあるから、万が一の時にはヘルプを叫んでくれたら別働隊に連絡させてヘルプに出る。
一応、金竜に勝ってもブレス奪うまでは別動隊のことは秘密な?
あっちも負けたように見せて策を練ってる可能性が0じゃないから」
と、情報を流すと、錆兎は礼を言って金竜の寮長の元へ急ぐ虎2寮の寮長組と分かれてゆっくりと自寮へ足を向けた。
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